第73話 フローズンウルフの爪②

 24階層へ向かう階段で少し休憩してから、先へと進む。あったかいココアを用意してあげたら、明日香に『お兄ちゃん最高!』って言ってもらえた。よくやった昨日の俺!


 みんなが心も体も温まったところで、24階層へと足を踏み入れる。


 この階層は雪が降ってるどころか、吹雪いていて前が全然見えない。方向感覚もおかしくなってるみたいで、階段を探す難易度が格段に上がっている気がした。明日香の顔を見てみると、雪が入らないように目を細めていた。その目の上の長いまつげに雪がついていて、何だかおしゃれでかわいかった。


 吹雪のせいで確実に寒さが増している。止まっていると凍えそうだったので、すぐに歩き出すふたり。その後をついていく俺。結界スキルで自身を覆い、中は熱操作のスキルで快適な温度を保っている。本当は手を貸して上げたいけど、試験だからね。心を鬼にして、厳しい寒さに耐えている美少女ふたりを快適な空間から眺めている。

……くせになりそう。


 さて、吹雪で視界が悪く、音も聞こえづらいせいで明日香はまだ魔物の接近に気がついていないようだ。逆に相手はこの吹雪に慣れているのか、はたまた別の探知手段があるのか、確実にふたりに近づいてきている。


 これはたぶん……4級の氷雪熊フローズンベアーだな。パワーも敏捷も氷雪猪フローズンボア以上。明らかに4級でも上位の存在だ。おそらく知能も高いのだろう、風下から吹雪に紛れて近づいている。


 明日香と楓ちゃんは……まだ気がついていない。教えてあげたいが、まだ我慢。明日香なら絶対に気づくはず。


「!? 楓ちゃん、下がって!」


 氷雪熊フローズンベアーが今にも襲いかからんとしたその時、明日香が気づいた。さすがは俺の妹! やればできる子だ!


 奇襲が失敗したことで、氷雪熊フローズンベアーは隠れることを止め、2本足で立ち上がり戦闘態勢に入る。


「大きい!?」


 その巨大な身体に楓ちゃんが思わず驚きの声を漏らす。しかし、それも無理はない。立ち上がった氷雪熊フローズンベアーの身長はおよそ3m。ふたりのほぼ倍の大きさだ。


 氷雪猪フローズンボアの時に学習した明日香は、水魔法は使わず最初から刀で戦うようだ。楓ちゃんを下がらせ、氷雪熊フローズンベアーの前に立ちはだかる。


 猪よりも小回りがきく上にパワーも上。4級上位にふさわしい強さを誇る氷雪熊フローズンベアーだけど、どうやらふたりの敵ではなかったみたいだ。音を立てて通り過ぎる巨大な爪も、頭を丸々かみ砕けそうな鋭い噛みつきも、当たらなければ意味がない。


 レベルが上がったことで、4級の氷雪熊フローズンベアーの動きがしっかりと見えている。明らかに敏捷も上がっており、余裕を持って躱すことができている。そして、明日香があえて反撃しなくても後ろには楓ちゃんがいる。

 楓ちゃんが隙を突いて風魔法でダメージを与えてくれるから、明日香はひたすら受けに徹していればいずれ倒せるだろう。


 氷雪熊フローズンベアーは傷が増えるほどに動きが遅くなっていき、躱すのも容易になっていく。戦闘開始からわずか十数分で、明日香は傷だらけになった氷雪熊フローズンベアーにとどめを刺した。


「やったね、明日香!」


「うん、楓ちゃんサポートありがとう!」


 完璧な勝利に思わずハイタッチする明日香と楓ちゃん。その様子を微笑ましそうに見ている俺……ん? なぜか明日香がこっちを見ている。まさか、俺だけ暖まってるのがバレていないよね?


 その後も吹雪の中を歩くこと2時間。氷雪猪フローズンボア氷雪熊フローズンベアーは頻繁に現れたけど、なぜか目的の氷雪狼フローズンウルフは姿を見せなかった。


「しかたがない、ボス部屋に行くとするか。そこなら間違いなく出てくるからな」


 25階層への階段を見つけたとき、俺はボス部屋で目的の爪を手に入れようと提案した。


 明日香と楓ちゃんはお互いに顔を見合わせた後、小さくガッツポーズをしていた。そんなにボスを倒したかったのかな?


 階段を降りて少し休憩した後、ボス部屋へと入る。ボス部屋は雪は積もっていたけど、他の階層とは違って吹雪いてはいなかった。

 部屋の真ん中に黒い三つ首の巨大な犬と、その両隣に目的の氷雪狼フローズンウルフがいた。


「それじゃあ、俺が地獄犬ケルベロスを倒すから、ふたりは氷雪狼フローズンウルフを倒してくれ。2匹だけど大丈夫だよな?」


 さすがに3級の地獄犬ケルベロスは難しいだろうから俺が倒すとして、レベルが上がったふたりなら氷雪狼フローズンウルフ2匹はいけるだろう。安心して戦えるように、地獄犬ケルベロスには即退場してもらおうか。


 俺は重力を操作して、地獄犬ケルベロスだけを空に浮かせる。


 急に足場を失った地獄犬ケルベロスは、空中でジタバタともがいている。突然の出来事に、明日香も楓ちゃんも2匹の氷雪狼フローズンウルフまでも唖然として地獄犬ケルベロスを見つめている。


 ピキン


 せっかくの3級の魔物なので、素材を丸々手に入れようと思って凍らせてみた。氷の塊になった地獄犬ケルベロスを念動力で引き寄せ、ダンジョンに吸収される前にアイテムボックスへと放り込む。


 さて、後は明日香と楓ちゃんが氷雪狼フローズンウルフを倒すだけだ。


 ボスがいなくなったことで、統率が取れなくなった氷雪狼フローズンウルフは、楓ちゃんのサポートの元、水魔法が使えるようになった明日香に、あっという間に斬り捨てられていた。


 すぐに爪を切り取り、無事目的の物を手に入れたふたりはとっても嬉しそうだった。美少女ふたりが手を取り合って喜び合う姿って尊いね。ごちそうさまでした。


 明日香と楓ちゃんが北海道解放作戦に参加するために必要な素材は、残すところあとひとつ。影羽蝶シャドウバタフライの羽だ。確か山梨県の南アルプス地下迷宮ダンジョンにいたはずだな。


 たった2日かでふたつの素材を手に入れたから、最後くらいは俺の手伝いなしで頑張ってほしい。万が一、間に合わないようだったら手を貸してもいいけど、時間はたっぷりあるから、移動も含めて自分達で取りに行ってもらおう。


 ちょっとした旅行になって楽しいかもしれないしね。


 そう決めた俺は、嬉しそうなふたりを連れて自宅へと転移した。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る