第29話 ガサ入れ(家宅捜索)






19歳の終わりに…1度目の自殺未遂をした後もキャストの仕事を続けた私は、20歳で単位制の高校を卒業した。








そして卒業後は、夢だった調理師になるために調理師専門学校へ通い始めた。









私より2歳下の妹も…無事に高校を卒業し、妹は美容師の専門学校に入学してマンション近くのカフェのアルバイトをしながら専門学校に通った。









マンションの家賃や車の維持費(18歳でちゃんと免許は取得)・食費・光熱費・2人分の学費は、私のキャストの給料で(当時68万円前後)足りていたので…残った分はなるべく貯金に回すようにした。









妹もカフェのバイトで自分のお小遣いは稼いでいたので、私たちの生活自体はさほど苦しいと感じたことはなかった。









相変わらず眠る時間はあまりなかったけれど、【人殺し】と彼女から言われた日からその言葉がずっと頭から離れなかった私は、その後眠ると…度々悪夢を見るようになっていたので眠る時間は少ない方が良かったのかもしれない。








私が21歳になった年の5月…それは突然何の前触れもなく訪れた。









【家宅捜索(ガサ入れ)】









早朝5時半過ぎ、マンションの自宅に外側から鍵を開けて入ってきた捜査員達によって眠っていた私と妹は起こされた。









私にとっては初めての経験で









(※通常はあまり経験することはありませんし経験しても何の得にもなりません※)









見ず知らずの警察官に勝手に自宅に入られ、複数人にベッドの周りを囲まれて起こされるだなんて思ってもみない出来事だった。









そして捜査員の1人から見せれたのものが【家宅捜索差押許可状(ガサ状)】 だった。









5、6人の男性捜査員と2人の女性捜査員がいて、私と妹にその場所から動かないように、スマホも触らないようにと指示したあと家宅捜索が開始された。









そして私は、その場で捜査員から話を聞かれる。









『〇〇〇さんは知っているよね?僕達がなんで家宅捜索に来たかもわかるよね?彼との関係を詳しく話してもらいたい。あと彼から預かったりしているものはない?』









捜査員のいう〇〇〇さんというのは、私を指名してくれるお客様だ。









週に一度位のペースで来店する。









仕事前に同伴して出勤、そのままラストまで指名してくれることも多く、閉店後にアフターで飲食することも度々あった。









お仕事はカタギの仕事ではないことも知っていたが……私たちのように夜の仕事をしていれば、そういうお客様とも知り合いになるしお金払いは良い方が多いのでトラブルは少ない。









私の固定客ではあったが、肉体関係があったわけではない。









ただ〇〇〇さんのお仕事上、私も他のお客様とのトラブルがあった時など何かと相談にはのってくれる人ではあった。









もちろんタダでというわけにもいかないトラブルもあったので…私はその対価としてある物を預かっていた。









それは〇〇〇さんが自宅とは別に所有していたマンションの部屋の鍵。









鍵は預かっていたものの、私自身はその部屋を訪れたことは一度もなかったしその部屋で何が行われていたのかも知らされてはいない。









〇〇〇さんとの関係性を聞かれた私は、それをそのまま捜査員に話した。









しかし私は…〇〇〇さんが逮捕された事も知らなかったし、なぜ私のマンションに家宅捜索が入るのかも知らなかった。









捜査員に見せられた家宅捜索差押許可状には、覚せい剤取締法違反(所持・譲渡)と記載されていた。









そう記載されてはいたものの、私自身は覚せい剤を使用したこともなければ所持したこともない。









〇〇〇さんが私のマンションの部屋に入ったこともないので、いくらこの部屋を捜索しても覚せい剤が出てくるはずもない。









何度捜査員にそれを説明しても、全く聞き入れることはしない。









マンション内の私や妹の部屋、リビングにキッチンにベランダにクローゼット、トイレやバスルームまで散らかし放題だ。









ありとあらゆる場所を散らかして周り、キッチンの調味料も全てひっくり返し、冷凍庫の氷まで全部溶かして調べるのには…驚きを通り越して怒りさえ感じた。









捜査員は裁判所の許可状があるからといって、まるで空き巣や強盗にでも入られたかの様に(いやそれ以上に)散らかし回るが…片付けは全くしない。









何か捜索差押して押収するものがあったならまだ納得はいくが…何もなかった時は謝罪してちゃんと散らかした部屋を片付けろと言いたくなる。









当然、私の部屋からは覚せい剤もそれを使用するための道具もなにも出てこなかった。









ただ一点だけ、私が〇〇〇さんから預かっていたマンションの鍵だけが押収された。









そして次は、私に両腕を見せろと言う。









注射痕の確認だ。









両腕を見て注射痕がないとわかっても、次は尿検査だと言われる。









やましいことなど何もないので、尿検査でも毛髪検査でもしてくれて構わないが…不愉快すぎるのが捜査員の目の前でドアを開けっ放しの状態でしなければならないこと。









さすがに見ている捜査員は女性だが、いくら女性とはいえ…今身につけている下着も全部調べられて採尿されるのは不愉快すぎる。









本当にここまでされて、謝罪もなければ片付けもしないのは理不尽だなと思った。









妹はその後(もちろん妹も私と同様の検査をされる)専門学校があるので登校した。









私はまだ被疑者扱いなので…学校には行けず、そのまま事情聴取のため警察車両で警察署に連れて行かれた。









尿検査の結果が出るまでは、警察署内の取調室で調書がとられる。









マンション内で捜査員に話したことと全く同じ内容の調書。









検査結果が陰性であり、調書の作成も終わったあと夕方になってやっと……私は自宅に戻ることができた。









学校から帰ってきた妹と、散らかし放題の部屋を片付けてから私はお店に出勤した。









その翌々日に、私をまた絶望のどん底に叩き落とす出来事がおきるとも知らずに……。









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