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私の中学受験が決まったのは、小学五年生の冬頃だった。私の意思ではなかった。
周りの皆が遊びに遊んでいるのを見ながら、塾三昧の毎日を送っていた。
「いい大学を卒業することが、幸せを掴むための第一段階なのよ。」
学歴厨の母親の口癖だった。高学年といえどまだ小学生の私には、いい大学に行くことと中学受験をすることに何の繋がりも感じられなかった。純粋な私の中に母親の思想がぐいぐいと潜り込んで、いつしか私は、中学受験をすることで本当に幸せになれると信じ切るようになっていた。
無事に第一志望の名門中学に合格した。私の幸せは約束されたも同然だと思っていた。
異変を感じたのは、新しい教室に着席して早々のことだった。
「中学生とかだるいねー。」
「ほんとほんと!」
構築された人間関係がそこにはあった。新学期のはずなのに、だ。私は、内部生の存在を知らなかった。
ほとんどが知り合いの内部生達にとって、外部生の私達は他人そのものだった。必要最低限の会話しかしない。辛さに耐えて合格を勝ち取ったというのに、報われない私達は、毎日肩身の狭い思いをした。
その中でも私は、異質な存在だった。中学受験をするくらいだ、外部生のほとんどは裕福な家庭だった。私は両親が無理をして学費を払っていることを知っていた。裕福なんてとんでもない、むしろ厳しい寄りの一般家庭だった。私は外部生の中でも浮いていた。
私が学校に通うことが家計にどれだけの負担を強いているかわかっていた。だから、口が裂けても転校したいだなんて言えなかった。中学一年の夏にはもう公立高校を受験すると決めていた。受験なんてしなくてもエスカレーターで高校に進むことが確定しているクラスメイトとは正反対の生活をしていた。ほんの一年前経験していた、勉強だらけの生活を。
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