第19話
研究所。
試運転室。
「なんだと・・・・・・っ?」
アガリアは目を見開き驚いた。
自身のその目に映る景色に。
復活。
さっきまで瀕死だった健斗が急に立ち上がったのだ。
「なぜ・・・・・・? どうして、立ち上がれる?」
瞬きを繰り返し、アガリアはその光景が現実であることを確かめた。
確実に致命傷を負わせたはず。
それにどうしてか、折れたはずの黒椿の刀身は元に戻っていた。
まるで、時が戻った様に。
「どうして――。どうしてだろうね」
健斗は落ち着いた声で首を傾げると、ゆっくりとアガリアへ歩いていく。
自分でも不思議だった。
どうして、この身体が動くのか。
それもこれも、白き世界で父と出会ったからなのだろうか。
そんな奇跡もあるのか、健斗はそう思っていた。
どちらにせよ、再びアガリアと戦うことが出来る。
この都市を守ることが出来る。
この身体が動けば、理由なんてどうでも良かった。
「まあ、いい・・・・・・。どちらにしても、もう一度――二度と起き上がれないほどに倒すまでだ」
赤い洋剣を突きつける様に健斗に向ける。
その瞬間、アガリアの士気が上がる様に赤い洋剣から魔力が漏れ出した。
震える空気。
その魔力は空間さえも影響していく。
「さあ、行こう――アガリア」
黒椿の柄に右手を乗せると、健斗は瞬時に抜刀した。
どうしてか、身体が軽い。
不思議と自分の中の魔力が満ちている。
健斗が黒椿を抜刀すると、
高音を立て黒き斬撃が勢い良くアガリアへ向かって行った。
アガリアは対抗する様に、赤い洋剣を大きく振りかざす。
黒き斬撃と赤い洋剣の衝突。
その反動でアガリアは大きく後退した。
「むむむむっ!?」
アガリアは驚いた様に目を見開いた。
先ほどまでの斬撃の威力と――違う。
アガリアは一瞬、理解が遅れた。
その後、慌てて赤い洋剣を後ろに構え、魔力を集束させる。
その集束は目視で確認出来るほど濃く、膨大なものだった。
本能が――。
魔族である自身の本能が、
目の前にいる人間を潰せと言っている。
こんな感覚は久しぶりだ。
あの魔導十二星座でさえも、そう感じなかったはずなのに。
「どうやら・・・・・・、ただ起き上がった――訳では無い様だな」
何かに察した様にアガリアは深呼吸をする。
この瞬間、アガリアの中で健斗は『油断出来ない相手』と認識された。
それと同時に『倒さなければいけない相手』となった。
「ああ。そうだよ」
落ち着いた声でそう言うと、黒椿を前に構え、健斗は走り出す。
走りながらも黒椿を後ろに構え、大きく息を吸う様に魔力を集束させた。
深呼吸をする度、
自身の魔力が満ちていく不思議な感覚。
今までの自分には無い。
これは父さんと会えたことで、僕の何かが変わったと言うことなのだろうか。
「炎魔――焔」
アガリアはそう言うと、魔力が満ちた赤い洋剣を大きく振りかざす。
赤き斬撃が放たれたと同時、
赤い洋剣の刀身から爆風が発生した。
この技は――。
健斗はその膨大な魔力に気づく。
この技こそ、先ほど僕を斬った技。
紛れもなく僕はこの技に負けたのだ。
翔ける様な赤き斬撃。
その斬撃は、一直線に健斗へと向かって行く。
僕は変わった。
何も無くただ平凡を願っていた自分とは違う。
今の自分は、自身の望む平凡を守るために戦うのだ。
「僕に力を――黒椿」
黒椿に語りかけ、健斗は自身の魔力を解放すると、
全身を纏う様な魔力が溢れ出した。
深呼吸。
健斗はその溢れ出した魔力を黒椿へと付加させる。
黒椿を振りかざし、斬翔――黒き斬撃を放った。
健斗は追撃の様に赤き斬撃へ向け、走り出す。
『黒き斬撃』対『赤き斬撃』
両斬撃が激突すると、空間が歪む様な衝撃波が周囲を襲った。
相殺。激突して数秒。
両斬撃は消滅する。
「――っ!?」
瞬時にアガリアは目を見開き、驚いた顔をする。
自身の目の前に健斗がいるのだ。
それも黒椿を後ろに構えた姿勢で。
アガリアが気づかないほどの速度で健斗は移動していた。
「さて――」
終わりにしよう。
ゆっくりと目を開け、健斗は決心した。
一閃。
黒き斬撃を纏わせたまま、黒椿を右斜めに力強く振りかざした。
切り裂かれたアガリアは、静止した様に動きが止まる。
その後、アガリアの胴体から右斜めに鮮血が溢れ出した。
「なっ・・・・・・に・・・・・・っ?」
数秒後。
自身の傷に気づいたのか、アガリアは驚愕の表情を浮かべる。
そして、無気力にゆっくりとその場に倒れた。
「終わったか・・・・・・」
アガリアの背後で振り切った黒椿を構え、健斗は息を荒くしていた。
終わった――。
そう意識した途端、疲労が重圧の様に圧し掛かる。
気がつくと、京介の方から感じていた魔力は無くなっていた。
つまり――。
健斗はその意味を理解する。
京介が勝ったのだ。
「京介、勝ったんだな――」
ふらふらとおぼつかない足取りで歩きながら、健斗は空を見上げる。
不思議と、空がとても青く見えた。
「――ああ。勝ったよ」
背後から聞き覚えのある声。
「っ!?」
慌てて振り向いた先に京介の姿があった。
特に疲れた様な様子も無く、今は平然とした顔をしている。
終わったのだ。
彼の戦いも。
「おかえり、京介」
笑みを浮かべて、健斗はゆっくりとそう言った。
――こうして、僕らの戦いは終わりを告げた。
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