第21話 由美side
時は少しだけ遡り、佐藤のクラスの夏休み前の思い出作りの話し合いである。
私は追い詰められていた。
先輩が生徒たちのためにプールを使うと言ったせいで、私のクラスの子たちは”うちのクラスでは何をするんだろう?”というふうに浮足立っているのだ。先輩が余計なことをしたせいで、私のクラスのハードルが上がってしまったのだ。ちなみに私のクラスではパーティーをするつもりだ。そこではお菓子と飲み物をクラス全員で持ちより、それをたくさん繋げて大きくした机に広げ、皆で話ながら食べるというものだ。そこで夏らしさとして、人気のあるアイスクリームチェーン店のアイスを出す。これでとりあえずいいと思っている。
そう思っていたのだが、先輩の行動によって、私のクラスの生徒たちは期待を抱きすぎてしまったようだ。クラスの中で浮足立つ様子が目立ち、私は何かアイデアを考えなければならなかった。
そんな中、クラスの一人の男子生徒が不満そうな顔をして手を挙げて意見を言った。
「佐藤先生、それだけじゃつまらないよ。他のクラスはプールで泳いでるのに、うちのクラスはただお菓子を食べるだけじゃつまらないよ」
と言って、他の生徒たちもうなずいている。
私は一瞬戸惑った。そうなのだ。私たちのクラスももっと夏らしいことをしなければならないのだ。
「じゃあ、どうしたらいいと思う?」
と私が尋ねると、生徒たちは一斉にアイデアを出し始めた。
「バーベキューをしよう!」
「キャンプファイヤーをやろう!」
「簡単な夏祭りをしよう!」
生徒たちのアイデアは次々に飛び出し、私はそれを受け止めていた。どれも学校でできる範囲を超えていた。キャンプファイヤーなんてできるわけないでしょ。夏祭りって準備できるわけないじゃん。もう、先輩のせいでこっちは大変ですよ。こうなったのは先輩のせいですよね。それなら責任を取ってもらいましょうか。まあこれにはまず教頭先生に許可を取らないとですね。
「そんなことは学校でできません」
「そこを何とか、佐藤先生」
「ダメです。ということで私たちのクラスは変わらずお菓子パーティーをします」
「「えぇ~~~~」」
クラスの生徒たちはがっかりそうな顔をして、私に言った。
「でも橋本先生のクラスがプールで遊ぶのは本当に楽しそうだし、他のクラスのアイデアも面白そうですよ」
「誰がそれで終わりと言いました?」
「え? だって今先生が”変わらずお菓子パーティー”だって……」
「それは昼の部です。夜は花火をしましょう」
「「おおおおおおおおお」」
「ただし、これに関しては上の先生に許可がいります。もし、許可が下りなかったら花火はしません」
「「絶対に許可とってください」」
「保証はできないかな」
私は生徒たちの気持ちを理解できるし、先輩の行動が影響してしまったことも分かっていた。しかし、学校のルールを守ることも大切であり、急に変更するのは難しいことでもあった。
「ごめんね、みんな。でも学校のルールを守らないといけないし、急に変更するのは難しいんです。それにお菓子パーティーも楽しいですよ。みんなで美味しいお菓子を食べながら、夏休み前の思い出を作りましょう」
生徒たちは一瞬諦めそうな顔をしたが、私が微笑んで言った言葉に少し安心したのか、再び笑顔を取り戻した。
「そうだね、先生の言う通りだよ! お菓子パーティーも楽しみだし、みんなでワイワイやろう!」
「それなら、お菓子の持ち寄りリストを作ろう! みんなで協力して準備しよう!」
生徒たちは一つの目標に向かって協力し始めた。私も生徒たちのアイデアを取り入れながら、お菓子パーティーを盛り上げるためのアレンジを考えた。その日は花火というアイディアを出したおかげで何とか乗り切った。
翌日、私は教頭先生に夜の花火をする許可を求めるために教頭先生の事務室を訪れた。
「夜に花火をやりたい、ですか?」
教頭先生が私に微笑みながら尋ねた。
「はい、生徒たちのリクエストで、夏らしいことをするために花火をやりたいと思っています」
と私が答えると、教頭先生は考え込むような表情を浮かべた。
「うーん、それはちょっと難しいなぁ」
「難しいですか?」
「確かに夜の花火は素敵なイベントですね。しかし、火災やけがのリスクがあるため、安全面には十分に注意しなければなりません。また、学校の許可を得ての花火は厳しいルールがあります。きちんと手続きを踏んで許可を得ないといけませんよ」
教頭先生が私に忠告する。
「お願いです、教頭先生。生徒たちが夏らしいことをしたいと言っています。生徒たちも子供じゃありません。花火くらいなら大丈夫でしょう」
私は熱心に頭を下げると、教頭先生はにやりと笑って言った。
「わかりましたよ、許可します。でも、条件がありますよ」
「条件ですか?」
私は驚いたが、教頭先生はにやりと笑って言った。
「君が責任を持つこと。万が一事故やトラブルが起こったら、君が対応するんだよ。校長先生には私から言っておきます」
「はい、分かりました。ありがとうございます!」
私は安堵の表情を浮かべながら教頭先生にお礼を言い、クラスに戻った。
「許可が下りました! 花火、できますよ!」
生徒たちは大喜びで、一斉に歓声を上げた。
私は教頭先生の言葉を受け止め、学校のルールを守りながら花火を行うことを約束した。教頭先生も私たちの意欲的な取り組みに感心し、許可してくれた。なんとか首の皮一枚つながったみたいな感覚だ。
別にお菓子パーティーだけでも十分なはずである。しかし、生徒につまらないと指摘された時に、なんだか先輩に負けたように感じてしまった。別に勝ち負けなんて最初からないのに、そう思ってしまった。
"私たちのクラスより、橋本先生のクラスのほうが楽しそう”と思われたくなかった。そうだと悔しいじゃないか。だから思い切って花火と言ったわけだが何とか許可されてよかった。
これでまだ先輩の横に立っていられる。
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