第12話-3 夏色の長い1日 月光
喫茶店で楽しい時を過ごしていたら陽が落ちた
本当はY君が演出したかった楽しい時間だったのだろう
なんか後ろめたい
Mちゃんは実家最寄りの◯比駅に自転車を置き、そこから電車で2駅隣のこの街に来ていた
私は自慢の愛車、13年落ちの軽バンを持ち出し◯比駅に送った
寂れた駅は、月光に淡く浮き出されていた
今日はありがとうございました
凛とした挨拶でこの変な1日が終わった
そう思ったが、運命はこれだけでは我々を解放してくれなかった
駐輪場に消えたはずのMちゃんが、車の方にまた走って来る
よく走る女の子だ
後からもう一つの影が走ってくるのがわかった。Mちゃんは素早く車に乗りこむ
男の顔が車のガラスに大写しになった
Y君だ
こんなに暗くなるまでこの駅の駐輪場で一人、Mちゃんを待っていたのか
ちょっとガラスを下げるとY君はMちゃんだけに向けて言った
「今日はつまらない思いをさせてごめんね」
怒ったでもなく、興奮したでもなく、冷静でネガティブな音色
Y君はバイクに乗って去っていった
Mちゃんは下を向いたまま怖がっていた
「何、あの人」
Y君が最後に残していったホラー。Mちゃんを車で送らず、電車で帰していたらとんでもない最凶ホラーだった
Mちゃんをほっとけないので、彼女の自転車は置きっぱなしにして、家の玄関まで彼女を送った
彼にしてみれば、謝りの言葉を伝えて筋を通したかったんだろう
ある意味彼の優しさと、元々持っている毅然とした所作だったのだが、どこをどう拾っても恐怖しかない。
駐輪場の暗闇の中、彼と目が合ったMちゃんも寿命が縮んだだろう
彼の良さが全て裏目に出ていた
つづく
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