第12話-2 夏色の長い1日 逃避行

 なんで女の子を自転車の後にのせて私は逃げているのか

 おかしなこともあるものだ

「先輩、助けて」と言われれば、ガンジーだって女の子を連れて逃げると、後に正当化したことを思い出す

「落ち着きなさい、冷静に話し合おうじゃないか」と言えるような "できた"人間もいるとは思う

私は違った

そんな "できた"人間は、初めからボーリング場に見には行かない


 Y君は女っ気がある方では無い。かわいい女の子とのデートをワクワクして臨んでいたはずだ。前日から着ていく服を選んだりなんかして、友達のカップルとのダブルデートで誇らしかったかもしれない。スケジュールを合わすのもがんばったのだろう


 それが友達のカップルの目の前で女の子に走り去られ、ヘンテコな素性の男の自転車に乗って後ろ姿が小さくなっていく

立場が逆だったらと思うとぞっとする

これは、たまらなかっただろう


広い国道で自転車をこぎながら、まさかと思った

振り返ってみるとY君が走って追いかけてきた


そして、その執念に追いつかれた

息を切らせながら「どうしたの?」と聞いてきた。Mちゃんは答えた

「おばあちゃんが倒れた」

無茶苦茶だ。これで察しろと言う事なんだろう

唖然とするY君を残して、全開で自転車をこいだ


 心が無になっていた、理解が頭脳を超えていた


 私だって似たような事はあった (無いか) 。気を落とすな、とY君に言いたい。どの口が言ってるんだって話だが


 私にも、こんなことがあった

中学の頃、クロスカントリー大会でなぜか皆とはぐれ、女の子と2人きりで歩く羽目になった。その時に露骨に嫌な顔をされた

付き合っているように見られたくなかったんだろう

それと同じだよ

「Y君のあの時は、ちょっと展開が派手だっただけだ」と慰めたい。気にするなと

しかし

自転車の後ろに乗せて逃げた私が言えることではない


 女性がらみでは、大学の同級生の鈴木君が頭から紅茶をかけられたという伝説があるが、私の周りで言えば、それ以来のひどい仕打ち

鈴木君もY君もどうやったらそんなことになったのだろう


そんなこんなで、MちゃんとT氏と私は、ケーキが美味しくて有名な喫茶店へ行き、楽しい時を過ごした


その時の会話でも、なぜあの場を逃げたかったのか、はっきりわからなかった

そんなに嫌わなくても・・・


あんなに、恥をかかせてまで嫌だったのか


Y君、人生がハードモード過ぎる


       つづく



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