第37話 人は神を求む

 小学生の頃、ほぼ神に近いと思ってた子がいた

それ自体、変な話ではある

私のクラスからは、離れた別のクラスの女の子

全然よく知らない子

名前だけを知っている

何がきっかけかわからないが、先生に次ぐ存在

いや、特に学力は先生を凌ぐぐらいに考えていた


そう、勝手に思っていたのだ


だからって、どうこうしようという考えは、まるでない

憧れていたのかと言われれば、そうでもない

ただひたすら神だと思っていた

話したこともない

同じクラスにもなったこともなくて、素性も分からない

なんとなく感じるものがあったのだろう

この世に君臨すべき存在

そう思っていた


そうして、中学生になる

塾には縁のない私ではあったが、

誘われて何回か、ある塾へ通った


その子がいた

神がいた

塾講師の真ん前の席に座っている

流石、私が見込んだ人だ

私は一番後ろに座ってスヌーピーを読みながら、授業を受けた


ある日、夜、塾の帰り道、少し冷たい季節

天候が悪くなってきた

小雨が降り出す

私は自転車に乗っていたし傘もない、このままでは濡れてしまう

車があまり通らない広くて暗い道

静寂の中、滑らかなアスファルトが濡れて黒く光っていた

綺麗だ

変な考えが浮かんだ

この道で、全速力で自転車をこいでハンドルをきり、ブレーキで後輪をロックさせたらどうなるのだろう


後先は考えない


私は雨の中、全力で自転車をこいだ

そして曲がりながらのフルブレーキ


恐ろしいスピードでスピンした、ハッと気が付くと道に寝ていた

手提げバッグも吹っ飛んだ

奇跡的に無傷

これが中学生

こんなことをするのが中学生なんだ

神との違いはここだ


ほどなくして、私はその塾から離脱した


そして高校生となった

あれれと思った

あの神が、高校で同じクラス

マジか

 私は中学二年から別の中学に転校したので、元の中学の受験の動向は知らなかった

わりと良さげの高校ではあったが、神が降臨する場所としてはどうだろうかと思った


 どう聞きつけたか知らないが、神が私にエレキギターを貸してくれと言う

幸い柔道部の練習が精一杯でギターは弾いていなかった

神に使ってもらえるのだったら誇らしい

中学二年生時に買ったレスポールもどき

ネックにVisionと書いてある素性のわからないメーカーのギター

いや、神が奏でれば、それがブランドか


エレキギターとは、意外に俗なんだなと思った

雅楽でもやりそうなのに


三つ子の魂百までも

就職してからも、神を見つけた

しかし、神までとはいかない

もう中学生ではないんだ。私にも常識が身に付いていた

半神だな

またもや女性。認めたくはないが、これは癖(へき )なのかもしれない

表情の変化の速度が遅く、ゆったりとした空気感をまとっていた

その様な神の共通点が見受けられる


その人はとにかくキリッとしていた。かっこ良かった

本当のところ、どんな人かよく知らない

話したこともない

そもそも主婦だ

名前も知らない。社内のネットワーク上にデータがあるので、調べようと思えば5秒もあれば分かる

あえて、確かめないようにしていた


心の中で勝手にレッテルを貼ってるだけだった


特殊な角度からの人間観察が私の趣味なのかもしれない

仕事中にでも、その人が目の前を通ると、私は心の中で「クール・ビューティー」と呟いていた

しっかり集中して仕事をしろと、自分を問い詰めたい


話しかけることは恐れ多い

幸い接点も無いので神性が保てた


自然現象の1つとして捉えていた。雷雨、太陽、雲の流れ、そういったものと同じだ

だから、"そういう" 対象ではない

畏怖さえ感じた

阿形像、吽形像のようなものかも


コンタクトをとる気は無かった

でも、もしギターを貸してくれときたら、喜んで貸してあげたはずだ

あのクールな主婦が、無表情でストラトキャスターをかき鳴らしていたら、私は倒れてしまっていただろう








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