第33話 カレー事件の真相に肉薄か
正月。小学生から高校生、OBが集まり、柔道初稽古が S高校柔道場で毎年行われている
何年か前の1月3日午前、恒例の光景がそこにあった
懐かしい顔の再会は、風貌の変化にどよめきと笑顔が交錯する
軽い勝負、半分本気の勝負が繰り広げられる
私が関係する小中学生は脇役だ
練習が終わり
道場を出ると机があって、簡易ガスコンロで鍋に火がかけられていた
ちょっとした飲食物を用意するのが高校柔道部員父兄の役割だった
その年はおしるこ
缶コーヒー等を温めて出すだけというのも多いが、その年はわざわざおしるこを作ってくれた
ありがたい
子供たちも大喜びだ。辺りの座りやすいところに座っておしるこに舌鼓
私もスチロールのお椀を受け取り、おしるこを食べた
うっ
あれ、おかしいぞ
不味かった
"おしるこ" がまずいなんてことがあるのか
はじめての経験だった
材料・調理法からしても、不味く仕上げる余地が少ない
素直な甘さではなかった
得体の知れない味が潜んでいる
香りか?味か?何がおかしいのかわからない
これが世に聞く雑味というものか
舌が肥えていた訳では無い。そんな私でも不味さを感じた
賞味期限を大幅に過ぎた出来合いの売れ残りを出したわけではない
父兄がわざわざ、小豆から作ってくれた新鮮なおしるこだ
ほどなく、低学年の小学生が職員室棟の玄関ポーチにおしるこをこぼした
学校施設を汚して帰るわけにはいかない
幸い、餅は食べきっていて無かったが、細かい小豆粒は完全には綺麗に出来そうもない
外に流し出してしまうのが妥当だ
父兄の一人が、空いたペットボトルを手に取り、目の前に位置する水道蛇口に向かった
水の入ったペットボトルを持った父兄、若い奥さんだが、私は強烈な違和感を感じた
"ちょ、待てよ" と心の中で叫んだ
手に持った透明なペットボトルに入った水が、緑色だった。たった今汲んだ水だ
ようやく声が出た「それ、緑色じゃん」
アオミドロの色というのか、水換えを怠った金魚ばちの水の色だ
「あらっ」ペットボトルを持った若奥様はそれだけ言うと、落ちたおしるこを器用に地面まで流した
そこでまた、電撃が体を貫いた
あの、おしるこの味。この水を使ったのか
それであの味。納得できる
おしるこの粘度を調節するのにあの水を使ったか、それとも最初からあの水だけで調理したのか
とても聞けない
疑問は、あの味に誰も気付かなかったということ
推測だが
味の不具合に気が付いても、言えなかったのだろう。ボランティアの仕事にケチは付けたくない
花形のメイン作業を "力 " のある父兄が担当する可能性が高いので、尚更だろう
一番悪いのは、あの水道だ
建物脇のアスファルトから50cmぐらい伸びた四角柱。その上部から生えたごく普通の蛇口
位置関係からすれば、洗車用としては最適、スポーツ関係の道具の洗浄にも使い易い
それにしても
何故、緑?
サビが混入して水が赤茶けているというのならわかる
緑って?
井戸水だってあんなに緑にはならない
私の推理はこうだ
メインの水道とは別に、めったに使われない系統の給水タンクが建物の屋上に存在する。そのカバーが壊れ、太陽光が入って植物性の微生物が繁殖していた
絶対に違うが、悪魔のストーリーもある
誰かが不凍液(エチレングリコール)を給水タンクに混入させた
これは自動車のラジエーターに入っている液体で、簡単に手に入る。色は緑
動機は、世の中を緑に変えたかったから
無い
そんな説は却下
仕事熱心な無能説と言うのも思いついた
当該給水タンクに水を上げるポンプがあったと仮定する。何かの事情でポンプ内に呼び水を入れて再稼働しなければならない場面となった
その時に"無能" は、冬場だから凍結防止にと気を効かせ、緑色の不凍液を入れた
そしてそれは結局、メインの水と混ざって流れ出ていった
しかし、健康被害が出てないことから、あの緑は不凍液でなくアオミドロだと思われる。ただ不味かっただけだ
気になるのはおしるこをこぼした小学生
あいつはどこまで分かっていたのか
異常な味に憤りを感じて、わざとぶちまけたか
至高のメニューを求める志士なのか
まさか
次世代の海原雄山の誕生に立ち会ってしまったということはあるまい
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