第29話 自己評価は甘く薫る
私は恵まれてると思う。経済的アドバンテージではなく、音楽的才能でもない、身体能力のみ少しだけ "何か" があるように思える
幼き頃、しっかりと学んだスポーツ競技はなかった
小学校低学年の時期、外で遊び回っていた
その場所の1つが重機置き場
ユンボとクレーン車をいっぱい所有する清○重機と言う会社があり、なぜか小学校1年〜2年の私が、車庫に入り浸っている機会がたくさんあった
今であれば考えられないことだが、私は無人の重機の車庫に勝手に入っていた
そして、勝手によじ登る
私はクレーンのブームをよじ登るし
ユンボの運転席にも座る
そしてレバーをめちゃくちゃに動かす
バルブと直結しているレバーがあって、そこに油圧が残っていると、ユンボの爪がほんの少しガクッと動く
それを楽しんでいたかと言うと、そうでもなく、オッと思うだけだった
それを大人は誰も見てはいない
レバーがめちゃくちゃな位置にあるから、この会社の重機オペレーターには完全にばれていたと思うのだが、私の侵入を阻む対策は徹底されてはいなかった
記憶の中では、たまにはドアに鍵がかかっていたような気がする
クレーン車を登る時、ド太いワイヤーに触れると、恐ろしいまでに黒い油が手につく
でも、私は心得ていた。手洗い場があり、そこにはピンク色の砂の様な洗剤があった
そしてそれを使えば、とんでもなく性格が悪くて悪辣でしつこい黒い油も落ちてしまうのだ
皮膚がどうにかなりそうな強さはあった
幼き私も、この油を服につけたら、おしまいだとわかっていたので、服には決してつけなかった
そのスキルは大したもんだ
良いトレーニングとなり、鍛えられた
そして、私の住んでいた街はその頃、製材の街でもあった。畳一畳の大きさのベニヤ板がうず高く積まれた倉庫が家の目の前にあった
私はそこにも侵入していた
スレート造りの軽量鉄骨と、ベニヤの足がかかるところを、巧みに登って、4〜5メートルぐらいに積んであるベニヤ板の山の登頂に成功していた
○○と煙は高いところが好きということかもしれない
ちなみに、成人してからの私は高いところは全然好きじゃないし、ジェットコースターも乗りたくない
小学校低学年の私は、遥か上空のベニアの上に乗ってサーフィンの様にちょっと揺らしてみたりしていた。そうすると、何トンもあるベニアの山は揺れた
大人は誰も見ていない
1番上に乗ったまま膝の屈伸で倒れない程度までに揺らした
山は倒れなかった
最後の道を外れる寸前で、常識人として踏ん張れた
強運というよりも、ご先祖様か誰かが導いてくれてたのかもしれない
ラッキーだった
あれ以上揺らしていたら、きっとこの世にはとどまってはいないと思う
まさにバランス
友達とはサッカー・野球・缶蹴り・鬼ごっこもした
近所に開けた場所があった
これも、他人の仕事場
最大径20センチメートル、長さは10m。先端での径は5センチメートルの杉丸太100本ぐらいが1m弱の高さまで積まれた山があった
その山が規則的に並んでいた
この木材は家の構造材とかには使われず、当時、足場に使っていた木材であり、そこは人力で杉皮をむいて仕上げる仕事場だった
この木材を番線という針金を使って組んで、ビルにも足場を組んでしまうのだから、当時の鳶職はスーパーマンとしか思えない
その広い土地で、缶蹴り・鬼ごっこをした
崩れやすい丸太の上を縦横無尽に走った
積まれた丸太の上を走ると丸太の山は崩れるがそれでも、崩れて動く丸太の上を走った
体の平衡感覚・繊細なバランスがすごく鍛えられた
流石に丸太に足を挟み骨折する者も出た
だからといって、誰もそれを問題にする人はいなかった
子供が自由に入って遊べるような状態になっているという管理不行き届きは責められず
子供を他人の敷地に入らせた親の管理不行き届も指摘されない
まさに自己責任
大げさに言うとマッドマックスの世界、それが私の育った街
現在、柔道を子供に教えていたりするが、この様な育ちであったがゆえ、子供のミスなどを心の底から怒ることができない。なぜならば、私の方がもっとひどかったからだ
その頃、飽きるほどサッカーをやって、飽きるほど野球やった
学区内で、年に1回試合のある町内のソフトボールチームでピッチャーをやったりもした
柔道ではちょっとだけ成績を残した。しかし、総じて、大成功はしていない
でも何かしら、ちょっとだけ人よりいけていると思ったりする
そう思えることが、才能
そう思えるから、おもいっきり動ける
自分の戦績・実力を過大に評価しがちだ
良い面として
ほんの少しの幸運・幸福をものすごくラッキーだと思えるメンタリティー
これは大きい
私にはそれしかないなぁ
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