第3話 仕方ないから


「じゃあ如月くん、いつ行く?」

「あの、一之瀬さん…」


 一之瀬さんはマイペースで如月と話してるけど、この男は気付いている。周囲からの刺すような男子からの視線を


「おい、如月は何者なんだよ」

「なんであの二人に囲まれてんだ?」

「ていうか、いつも三条さんに話しかけてもらって、どうなってんだ?」

「別にイケメンでもないし、むしろ友達いるのか?」



 クラスで目立たないメガネ男子が、学園の四天王を二人同時に相手にして、しかも一之瀬さんには、本屋に一緒に行かないかと誘われているんだから、無理もない


「ねえ…駄目なの?」


 ちょ、ちょっと!

 そんな悲しそうに上目遣いで見るとか、あざと過ぎない?しかもそれが無自覚とか、信じられないんだけど


「い、一之瀬さん…如月くんも困ってるみたいだし、また今度にしたら?」


 つい助け舟出しちゃったけど、これはさすがの私でもマズいと思った


「じゃあさ、三条さんも一緒に行く?」

「はい?」


 なんでそうなるのよ!!

 そういう話じゃないって言ってるの!


「如月くんも、それならいい?」


 違う!そういう話じゃないんだってば!


「あの…またいつか機会があれば、その時にでも…」


 お、如月のやつ、無難にやり過ごそうとしてるな。うんうん、それがいいよ


「そっか、残念…。じゃあ、いつでも声かけてね。待ってるから」

「う、うん…」



 一之瀬さんはそう言って教室を出て行ったけど、まだ何人かの男子達は如月をチラチラ見て、何か小声で話している。

 たぶん、あまりよくない内容だろうな。

 そしてそれを、この男も分かってる


 それなら…


「ほら!みんなも、一之瀬さんってああいう女の子だし、みんなに優しいよね。だから人気があって、本当、私もああいう子になりたかったな。憧れちゃう」


「えへ♪」みたいなノリで、クラスのみんなに聞こえるように私が言うと、


「そ、そうだよな。なにも如月が特別ってわけじゃないよな」

「うん。一之瀬さん優しいもんな」

「そうそう、俺もこの前話聞いてくれてさ」


 なんとか収まりそう…かな?


「ふぅ…」


 なんで私が気を回さないといけないのよ。

 そう思って少し溜息が零れたその時、隣から私にしか聞こえないような小さな声で、


「あの…」

「え?」

「ありがとう…」

「何が?」

「あ、いや…なんでもない。俺がそう思っただけだから」

「そ、そう?」


 そのままさっきの長いタイトルの本に目を通し始める如月。

 でも、なんか不器用な子なのかな、ふふ…


「ねえ、そういえばさ」

「え?なに?」

「どうして一之瀬さんとは普通に会話してたの?」

「…慣れかな」

「慣れ?」

「人と話すの苦手だって言っただろ?たぶん俺、人見知りするんだ」


 なるほど、そうなのかも


「そうかもしれないわね」

「でも、一之瀬さんは毎日ずっと話しかけてきてくれてたんだ。それで…たぶん慣れたんだと思う」

「それなら、私にも少しは慣れてくれた?」

「いや、全然」

「なっ…」


 少し悪戯っぽく、わざとらしく聞いてみた私に対し、この男は真顔でさも「何言ってんの?」みたいなふうに返してくる


 ほ、本当に…本当になんなのよ、こいつ!


 この私にこんな扱いをしてくる男なんて、今までにはいなかった。屈辱だ


「そ、そう。まあいいけど?」


 今度こそ、本当に今度こそ!もうこいつには金輪際関わらないんだから!

 ふん!全く、こんなの相手にしてたらこっちのメンタルがもたないわよ


 そう思い、顔を背けそうとしたら、


「…ごめん、まだ慣れてなくて…たぶん素っ気なく返事してるよね…」

「え…」

「あの…三条さんにも悪いから、もう俺に気を使って話しかけてくれなくてもいいから」


 少し悲しそうな、でも、優しい目をしてそう言う如月に私は…



 キュン…



 ち、違う!だからこれは違う!!



 も、もう…仕方ないから、もうちょっと相手してみようかな…





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