第26話:歪な別れ方
建物内は西洋の城のような内装となっていた。
外面は一面廊下のようで、入ったところを見ると前に扉、両端には廊下が広がっていた。反響がよく、足音を立てただけで建物内全体に響き渡る。
「ひとまず、真ん中の方へと行きましょうか」
誇誉愛先輩を先頭に前にある扉を開く。扉は両開きになっており、誇誉愛先輩は取っ手を持って、力強く開いていく。
中を見ると、大きな部屋が広がっていた。
外枠を道が囲い、真ん中の方には階段がある。階段は下となっており、どうやら、俺たちがいる場所が最上階のようだった。見上げると天井が見えるのみで、上の階らしきものは見つからない。
「階段のある方へ行きましょう。見た感じ、分かれ道になっているみたいね」
歩きながら、下の階をのぞく。階段は最初に降りる部分は一つだが、途中の段階で4つに分かれるようになっている。
「4人で4つだから、ちょうど一人ひとつずつですかね」
湊さんが俺たちと同じ方向を見ながら言う。まあ、そうなるのが普通だろう。
「そうしたいのは山々だけれど、それで大丈夫かしら?」
誇誉愛先輩は顔を後ろへと向けて俺の顔色を伺う。俺のことを気にしてくれているようだ。戦闘経験が未熟であるため、組織のメンバーとちゃんと戦えるのか不安なのだろうか。
「大丈夫です。それが柊さんを探し出せる最適な方法だと思いますから」
俺が足を引っ張って、柊さんを見つけるのに時間をかけるわけにはいかない。それに例え敵に負けたとしても、最悪『ログアウト』なのだ。なら、そこまで恐怖する必要はない。
それに、俺は霊気の才能に恵まれている。赤面の鬼が傷つけることができなかったのだから大丈夫だろう。
「オーケー、なら4つに分かれましょう」
決まったところで俺たちは階段の方へと足を運んで行った。階段を降り、途中の分岐する点で止まる。分岐した階段を降りると扉を開くようになっている。
「誰がどっち方面に行きますか?」
「あたしは北で。私の勘が『こっち』がいいと叫んでいる」
「じゃあ、僕は東で。4方向の中では一番好きな方角だからね」
「俺は別にどちらでも」
「じゃあ、私は南をもらおうかしら。直感で」
「では、俺は西ですね。了解です」
「では、決まったところでみんなの健闘を祈るよ。っ!」
すると、誇誉愛先輩が何かを察したのか掛けていた細長い袋を肩から外すと竹刀を取り出す。それを横へと旋回させた。
彼女の剣先を見ると、白色の霊気が飛んできていた。誇誉愛先輩は霊気を打ち落とす。
「早速お出ましだね」
霊気が飛んできたであろう方向を見ると、黒いマント姿の鬼面がいた。赤色ではなく、白色を被った鬼だ。
「ここは私がやるわ。3人は先に各々の扉に行って。私の霊気展開でヒットしたのはあいつだろうから、ここから先は未知の領域よ。もう一度言うけど、健闘を祈る」
「誇誉愛先輩も気をつけて。白色の霊気で霊力を扱えるってことはあいつなかなかの再生者だと思うから」
「ありがとう。任せなさい」
誇誉愛先輩はそう言うと、白色の鬼面のいる一階へと駆け上がって行った。
俺たちは彼女が走ったのと同時に自分の階段へと駆け下りていく。
誇誉愛先輩は一人しかヒットしなかったと言ったが、この先に敵は果たしているのだろうか。
そんなことを思いながら扉を開く。すると扉の先には白い光が広がっていた。
まさかの光景に驚きながらも白い光に包まれる。その瞬間、いつもリープ機能を使った際に体感する感覚に陥った。
白い光に入ると、すぐに視界が開く。
相変わらず、俺は城の中にいた。内装の様子も先ほどいた場所とあまり変わらない様子だ。だが、明らかな違いがあった。
「さむっ……」
俺のいる部屋は明らかに温度が低かった。冷凍庫にでも入れられたかのような身も凍るような寒さだ。俺はレイヤーを操作して、慌てて防寒用の服へと私服をチェンジする。
ついでに今の自分がいる位置を確認する。地図を見ると、俺はメタ・アースの世界にはいなかった。
『???』と書かれた専用の仮想空間へとリープしている。
どうやら、彼らのアジトというのは、特別公務課専用スペース同様、別の仮想空間で構築されているようだ。
きっと、このアジトに柊さんはいるはずだ。
「それにしても、防寒服あたたけーな」
「全く哀れな人間よ」
両手を体に包み込み、暖かさを感じているとマットを踏みつける足音が聞こえてくる。
その音で俺は前の方へと意識を集中させた。黒いマントを着た水色の鬼面がこちらへと近づいてくる。声の調子からして女性であると推測できる。
一人だけで戦うと言うのは初めての経験だ。
自分の霊気に意識を向け、色を若緑色に変えていく。
「若緑……そして、この霊気量。まさか、私の元へとターゲットが来るとは。これは面白くなりそうだ」
水色の鬼面はそう言うと、自分の霊気を外へ放出する。
その瞬間、部屋一面が氷へと変化した。同時に、俺の霊気が無意識に荒ぶっているのがわかった。彼女の霊気がこの部屋全体に影響を与えている。
敵はかなりの強者。
だが、負ける気はさらさらない。
俺は水色の鬼面に向けて、両手を前に向けファイティングポーズをとった。
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