第51話 友達思い

 「たくちゃん。どうしたの」


 「悪いな、たくちゃんじゃなくて。久しぶり。仁だけど、あのさ、早速本題に入るわ。お前は巧とどうなりたいわけ。巧がまだ結婚したくねえって悩んでること知ってんだろ」


 巧が携帯を取り返そうとしてくる。


 「うぜえ、じっとしてろ」


 「うん、知ってるけどね、早く結婚しなくちゃ駄目なの。周りが結婚してるからとかじゃなくて二十代のうちにたくちゃんの子供が欲しい。たくちゃんは、結婚したら式を挙げないとって思ってるみたいだけど、奈々はしなくても良いと思ってるんだ。だってね、挙げたから別れないとも限らないし」


 何で今から別れる前提で考えてるんだよと、つっこみを入れようとも思ったが面倒くさくてやめた。


 「そうか。んま、とりあえず陽菜は結婚してから一度だって、俺に別れるかもしれないなんて言った事ねえけどな。刺されて死にかけた時、陽菜の母親に拉致られてボコボコにされた時も。陽菜は、俺しかいねえって言ったんだよ。お前より三つ年下でも、そんだけの覚悟で結婚してんだ。その覚悟がねえなら、結婚なんて辞めちまえ。別れるかも何て考えながら、結婚して子供を産んでも上手くいかねえよ」


 「おい、仁、奈々に何て事を言うんだよ。奈々はな、俺を好きなんだぞ。俺だって奈々が好きだ。結婚してえよ」


 携帯を巧が取り返す。そして奈々と話すと通話を切った。


 「たくよ。本当に。もしこれで別れることになったらどうするつもりなんだ」


 「そんなの知らねえ。だって、あいつがお前と別れる前提で話しやがるから。それに、なんだかんだ上手くいっただろうよ」


 巧は、あ、確かにと言った。


 「もう面倒くせえから相談なんてしてくんなよ。してきても一切乗らねえからな」


 「と言いつつも友達思いのじんじん好き」


 恥ずかしくなって晴の頭を軽く叩く。


 「うぜえ。誰が友達思いだっつうの。そんなんじゃねえし。黙れ、死ね」


 「ああ、じんじん照れてる。可愛い」


 からかうように晴が言ってきて、俺は立ち上がるともう帰ると言って店を出る。


 「待ってよ、じんじん」


 追いかけてきた晴を睨み付ける。


 「もうちょっとお話ししようよ」


 「しねえよ、あほが」


 晴と巧を置いて自宅の方に歩き出す。結局二人は自宅までついてきてしまった。


 「ついて来んな、うぜえ」


 「良いじゃんよ。僕たちだって、可愛い悠人くんの顔を見たいんだよ。ね、たっくん」


 巧が頷く。仕方なく中に入れることにした。


 「ただいま。陽菜?」


 「あ、お帰りなさい、仁」


 陽菜はついてきた二人を見ると俺の顔を見た。


 「勝手について来ちまった」


 「そうなんだ。巧さん、晴さんいらっしゃい」


 陽菜が微笑むと二人は、癒やされると言ってにやけた表情をした。


 「あんま陽菜の事見んな、腹立つ。陽菜もそんな顔すんな」


 陽菜の手を掴みリビングに向かう。


 「どうして?」


 陽菜が不思議そうに聞いてくる。


 「陽菜ちゃん、それは、仁が嫉妬したからだよ」


 「してねえよ。誰がするかよ。死ね」


 吠えるように言うと陽菜が笑った。


 「てめえは何笑ってんだよ」


 「だって、やきもち焼いてくれたんだとしたら、嬉しいなって思って」


 陽菜が俺の事を見ていった。


 「くそ、この野郎。何でそう言う顔すんだよ。そう言うのは俺一人の時にしろよ」


 「ほらやっぱり」


 巧が口を挟み俺は、うるせえ、黙れと言って黙らせた。


 「お前ら、悠人見に来たんだろ。なら見てさっさと帰れ」


 「帰らないようだ。僕はね、悠人くんを見に来たのもあるけど、陽菜ちゃんの手料理も食べに来たんだもん」


 晴はそれまで居座るつもりか。こっちは早く帰らせてゆっくりしたいというのに。


 「巧は帰るんだろ」


 「俺も食べたい」


 巧は家に同棲してる奈々が居るんだから作って貰えば良いものを。何故わざわざ陽菜の料理を食べてから帰るのか。


 「くそが。何でわざわざ食って帰るんだよ」


 「そんな怒らないで。陽菜は平気だから」


 陽菜が困った様子で微笑んだ。


 「わかったよ。仕方ねえな。なら、手伝ってやるよ」


 「うん、ありがとう。仁は、悠くんにミルクお願い。そろそろ時間なの」


 陽菜に言われた通り、ほ乳瓶の中にミルクを用意して、巧と晴にあやされている悠人を抱き上げる。


 「それあげるの。僕もやりたい」


 「駄目に決まってんだろ。悠人は人形じゃねえんだぞ。ほれ、飯だ。飲め」


 悠人がほ乳瓶の中身を飲み干し、ゲップをさせてからベッドに横にした。


ー続くー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る