第44話 待ちわびたお茶会

「最近になってようやくラトゥの言ってた感覚が分かってきたの」


 庭のテーブルに座る僕達四人は、美しく展開されている色とりどりのお菓子を楽しみながら会話に花を咲かせていた。

 キゼルは隣に座っているリテが大事そうにお菓子を食べるのを眺めながら、口を開く。


「いつもと比べて魔力が身体から抜ける感覚が強い。“火球かきゅう”程度なら何とかなるけど、これが“火蔦かちょう”になったら立ってられる気がしないんだよね」


 いつもの心から明るい笑みとは違い、少し困ったように眉を下げながら苦笑するキゼル。その表情はゲームの時に不安や焦り等を隠そうとしていた時の表情によく似ていた。


「私はまだその感覚はわからないですけど、そんなに違うものなんですか?」

「ん~そうだね……長時間獲物を待ち伏せた後急に立ち上がった時、みたいな感じがする」

「な、なるほど……?」

「あれ、伝わらないか」

「私の家での狩りはひたすら追いかけるので……」


 キゼルの隣で聞いていたリテはお菓子を食べる手を止めて、未知の感覚に興味を示す。

 彼女は色んな事に興味を持って訪ねることが多いし、それをちゃんと理解しようとする娘で、その瞬間は特に生き生きとしている。

 新しいものに敏感で正面から向き合うせいか、たまにこうして理解しきれずに残念そうにする姿も何度か見た。


「いいのいいの!家ごとに違いがあって当然だし、リテも修練すれば自分の感覚で説明できると思うよ」


 そんなリテの対処も慣れた様子のキゼルは、頭を撫で、頬を揉んでリテの沈んだ気分を盛り上げ、とどめとばかりに新しいお菓子を皿に取り分けて手渡した。


「そうですね、私は私の感覚を身につけます!」


 すぐに立ち直り意欲に満ちているリテを見て、キゼルが楽しそうに笑っている。


「リテはもう二つ目の課題まで進んでるし、成長の速さはアタシが保証する!」

「はい!頑張ります!」


 本当に仲がいいな、と思いながらその様子を見ていた僕はお茶を飲む。

 好きなキャラが目の前で繰り広げる微笑ましい光景を、だけが観覧することが出来る。なんて贅沢だろう。


「で、ラトゥは何を笑ってるのかな?」

「あ、いや。本当の姉妹みたいだなって思ってただけだよ」

「ホント~?なんかそれ以外のことも考えてる顔に見えたけど~?」


 やっぱりキゼルの勘は鋭い。

 彼女の事は友人として好ましく思っていて、いつもはそのように接している。しかしさっきはこの状況をプレイヤーとして純粋に楽しんでおり、そのわずかな感情の違いを察されたのか?

 今は軽い疑問程度でも、それが根付いてしまうと将来的に困ったことになりかねない。だからいつも友人として仲を深めたいのを必死に抑え、断腸の思いであまり関わりを持たないように気を付けている。


「いやだなぁ、そんなことないって」


 何とか動揺しないように返答し、キゼルの探るような視線を受け止める。

 その甲斐あってかすぐにいたずらっぽい笑みを引っ込めた彼女に緊張を解き、心の中で大きなため息をついて安堵する。


「なんてね、冗談だよ」


 キゼルはそう言うといつもの調子に戻って人好きのする笑顔を浮かべ、目の前のお菓子を手に取って美味しそうにかぶりついた。

 さっきまでの彼女には肝を冷やしたけど、やっぱりこうして明るく笑っている姿はゲームの時と変わらず愛らしい。

 ふと、視線を感じて視線を動かすと、僕の隣に座っているソファトが視線を向けているのが目に入る。


「何かなソファト?」


 彼女の対応は、いつもの周りに人がいるときの堅いもので、こちらを煽る気配は欠片も感じられない。

 それでもその観察するような視線は口と違って何かを語っているようで、数秒互いにお茶を飲みながら視線を交わしていた。


「いえ、なんでもありません」

「ならいいんだけど」


 そう言っただけで彼女は探るような視線を収め、そんな空気から解放された僕もようやくお菓子にありつける。


「どうしてソファトさんはラトゥさんとだけそんなに仲がいいんですか?」


 と思ったのも束の間、キゼルの横でお菓子を食べていたはずのリテがその手を止め、こちらをじっと見ながら尋ねてくる。

 それにはキゼルも少し驚いたようで、普段積極的に会話をしないソファトにこのタイミングでわざわざ話しかける理由が思い当たらないようだ。


「別に仲がいい訳じゃ……というか、なぜ私に尋ねるのですか?」

「え?それはその……何か特別な事があったのかと思って」

「……どういう意味です?」

「ちょ、ちょっとリテ?」


 首を傾げ、両耳をピコピコと動かしてソファトから返答を待つリテ。

 その様子と先程の質問により、少々気が立っている様子のソファト。

 両者を刺激しないように、どう言おうか迷って口を挟めないキゼル。

 そして自分の話題のはずなのに全くその輪に入れない僕。

 

「手合わせで打ち解けたのはわかりますけど、私とキゼルさんと距離があるままですし、さっき見てましたけどラトゥさんの肩を叩いたりとか絶対に他の人にやらないので……それが気になって」


 ソファトの雰囲気がいつもより剣を帯びているのを感じ取ったのか、尻すぼみになっている。

 それでもソファトの答えが知りたいのだろう、目線だけは逸らさないでいた。


「距離感があるのは元から他人と打ち解けるのが苦手だからです。ラトゥさんとは手合わせ中に散々遠慮なく煽り合ったので、もう取り繕う必要が無いだけです。肩を叩いたのは……彼がぼーっとしていたので仕方なく」

「じ、じゃあ、私にも遠慮せずに──」

「いえ、できればこのままでお願いします。もし御不快なのであればラトゥさんとの接し方も治しますので」

「そ、そこまでする必要は無いんですけど……」


 結局ソファトの圧に押し負けて、耳も尻尾も畳んであきらめムードになってしまったリテ。

 ソファトもその様子にこれ以上話すことは無いと思ったのかカップに口をつけ、お茶でのどを潤す。

 お茶会の間には何とも言えない空気が漂い、お茶を飲む音すら立てづらい。


「もうリテ、こういう場で踏み込んだこと聞いちゃよくないんだよ?」


 空気を切り裂いたのは我らがヒロイン、キゼルだった。

 その行動自体は彼女らしいと言えるのだが、浮かべている笑顔がいつも以上に明るく楽しそうに見えて何ともこの空気にそぐわない。


「キゼルさん……ごめんなさい」

「アタシじゃなくてソファトに謝らないと。急に答えずらい事聞いちゃってごめんね~」

「いえ別に。隠すことも無いので、答えづらくは無いですよ」

「そっか~」


 変わらず満面の笑みを浮かべながら、リテを慰めつつソファトの態度を軟化させようと会話を試みるキゼル。


「隠すことは無いってことは、全部本心ってことだよね?」

「そうですね。御不快でしたでしょうか?」

「ううん、全然。むしろ嬉しいんだよ!お茶会した甲斐があったんだから!」

「う、嬉しい?」

「だってやっと修練同期として本音を話してくれたんだから!ラトゥとも遠慮なく会話できるって言ってたし、リテにも同じように話せたじゃない」


 前向きな意見だ。

 凹んでいたリテも、強い拒絶を示したソファトもあっけにとられて口を挟めない。勿論僕も黙ってる、話せることなんて最初からないので。


「今回のお茶会はこんな感じになっちゃったけど、一回位私達本音で話してみてもいいんじゃない?」


 その言葉に思わずといった様子で見つめ合うリテとソファト。

 リテの瞳には期待と懇願、ソファトの瞳には困惑と煩雑がそれぞれ表れている。


「ラトゥ抜きで」 

「えぇ……?」


 そして僕の表情はとても悲しいものとして三人の眼に映っていたことだろう。

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