Collapse of Seven Worlds

る。

七つ世界が壊れても

「いや、だから、本当に困る」

「世界の危機なんです。ご協力ください」

「俺もだよ。疑われた時点で捨てられかねない」


 ウォークインクローゼットの内側で押し問答を繰り広げる内にピーンポーンとチャイムが鳴り響く。

 全く信じて貰えないだろうが、部屋の掃除中にクローゼットのドアを開けたら何故か銀髪ポニーテールにボディスーツ姿の少女(高校生くらいか)が、忽然と居たのだ。理由を問い質したいがそんな暇はない。取り敢えず隠れてもらわないと――

 かちゃり、と無情に部屋のドアノブが回った。立ち竦む彼女。

「……誰?」


   *


「世界線管理委員会、春の七草隊所属コードネーム:セリでふ」

 

 彼女が持ってきてくれたオペラ・ケーキを頬張りながら少女はそう名乗った。

 白けた表情で隣に座る恋人にせめて態度を合わせる。しかしその冷ややかな視線はどちらかと言えば俺に向いていた。


「取り込み中だったみたいだし、取り敢えず今日は帰るわね」

「違うって――なあ、えーっと、セリさん? 何で家にいたのか俺が聞きたい」


 この間に二つ目のケーキを平らげた少女は、コホン、と勿体ぶった咳をした。


「単刀直入に言いますと、θシーター8.123667世界線よりアナタを抹消しに来ました」


「何でだよ……」もう誤解が解ければそれでいいと諦めのため息を吐く。

「重篤な電子ウィルスに感染している可能性があります。直近で、新型VR技術に触れる機会はありませんでしたか」

 あった

 そうでしょう、と銀髪少女はうなずく。

「ある特異点まで、電子機器と生物へのウィルスは全く別物でしたが……電子で作られた世界にヒトの感覚器官が密に接続されることで、脳の電子信号に異常を来す作用が発現しました。それはあたかもプログラムを書き換えるように、多くは破壊衝動の指向性を伴って徐々に人格に異常を来します。大衆的、、、には“ヴェノム化”と呼ばれる症状です」

「あー……初耳だな」

ζジータ世界線で、ですね。最終的にほぼ全人類がヴェノム化して文明は途絶えましたが。

 ひょんな巡り合わせや運から未来の可能性は無数に分岐していくのですが……、それが世界崩壊に至る程の転機がこれまで七つ観測されており、それを我々は“七つの大不運アンラッキー7”と定義し、その阻止に努めています」


 ふう、とある種の安堵を覚えつつ彼女を向いた。この真の変――天然性は一目瞭然、不法侵入は証明されたはずだ。


「その理論には疑問があるわ」と、しかし彼女は真面目な顔で口を挟む。意外とノリがいいんだよな。

「あなたが別の世界の人間だとして、他の世界の崩壊に干渉する必要があるのかしら」

「なんと、司令のように冷徹……私が新人の頃は何の疑問も抱きませんでしたよ、別世界とは言え人類を救うことに」


 褒められた彼女を自慢げに見ると、未だに冷めた目で答えを待っている。銀髪少女は意味なく声を顰めた。


「――ぶっちゃけ、巻き込まれ、、、、、を防ぐ為です。近似した世界線では同一の結果へ向かおうとする、収束の影響を受けることがありますから……と・言う訳で」少女が身を乗り出す。

「うわっ」

 ズボッと鼻の穴に何かを刺される、そして抵抗の間もなく瞬時に引き抜かれた。

「検査です、すみません一番手頃な穴なので……――あれ?」

 その体温計のような機器の表示を、じいっと凝視している。

「反応が無いな……まさかシロ? でもゲートはここに開いたし……」ぶつぶつと何か呟き「ヤバい、どうせ消すと思って喋りすぎた……どうしよう」と、ソロソロと顔を上げた。


「彼女サン、最近のカレに何か異変はありませんでしたか。初期症状は当人の無意識下が多いので」

「……」考え込んでみせる彼女は、意外と子供の扱いが上手いのかもしれない。

「客観的な兆候ってあるのかしら。――例えば、影が見えなくなったりするとか」

「スミマセン、そういう非科学的なのはちょっと」

「こら、」と少女を嗜める。子供ってノると手のひらを返してくることあるよな。ふう、と彼女もため息を吐く。

「ないわ。――大丈夫よ」

「そうですか、残ね……いや、良かったです。うーん……でも万一の為に抹消した方がいいのかな。けどイケメンを失うのは世界の損失とも……ちょっとゴギョウ君に似てるし――うん」


 銀髪天然少女は遅ればせに笑顔を作るとテヘペロ、と舌を出した。


「あ、これ全部嘘でして、ちょっとクラスメイトと盛り上がって作った設定なんですけど……」

「あら、そうなの。すっかり騙されたわ」と彼女は柔和に微笑む。

「そうですか! セーフ……じゃあ、帰ります。その……クローゼット――が、ある部屋のベランダから」

「気を付けてね。あ、部屋を間違えないよう扉の前まで送るわ」

「ありがとうございます。さっきはスミマセン、冷徹なんて言って……お姉さん、優しいです」

「気にしてないわ。ところで、その設定、、なんだけど――」

 そんな会話をしながら、彼女は銀髪少女とリビングを出ていく。



「ありがとう」と、戻ってきた彼女に声を掛けた。「学生だろうし通報もできないよな。けどコスプレまでしてちょっと面白かったな。最後は何を訊いてたんだ?」

「一部の人が“ヴェノム化”しなかったのは何故か、よ。全人類、て言ってたでしょ」

「確かに。電子となると特効薬も難しいだろうしな。未開の地に逃げ込んだとか?」

「補足の限りでは精神免疫だって。不満がなく自己肯定感の高い人程発症が遅かったらしいわ。――対処療法として、“大切な人の望みを七つ叶えてあげること”・てジンクスも生まれたみたい」

「ラッキーセブンか。けど、七つじゃ少ないよな? 俺はお前が望むなら何だって叶えたい」


 ようやく二人だけになった部屋でそっと彼女を引き寄せた。


「俺は傍にいられるだけで幸せだから」

「大丈夫……私が傍にいるわ。ずっと」


 ゆっくりと唇が近づく。七つの大不運アンラッキー7。もしそんなことで世界が崩壊しても、きっと俺達の幸せは変わらない。世界なんかより、彼女が大事だから。











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Collapse of Seven Worlds る。 @RU-K

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