第33話 いすずとご褒美⑶

 いすずは俺のいる方向を見て、ニッコリ微笑んだ。


「お兄ちゃん、そこにいるんでしょ?」

「っ!」

「早く出てきてください」


 まさかいすずにバレているとは思わなくて、驚いてしまった。


「(あっ!)」


なので、反射的に隠れていた場所から出てしまった。


「あっお兄ちゃんみっけ!」

「な、なんで」

「いすずちゃん気がついてたの!?」

「えぇ。だって、バレバレなんですもん」


 いすずと青が俺に近寄ってくる。いすずは、俺を指差すと言った。


「まず最初に、その格好」

「え」

「どう見てもバレバレです。ってかそんなサングラスにマスクなんて格好をしていたら目につきます」

「うっ」

「私みたいにもっと自然体にした方が、案外バレないもんですよ?」


 たしかにいすずの変装は自然体で、見た目から注目はされるが……星夜いすずとバレていなかった。


「それと青ちゃん」

「は、はい!」

「電車に乗った時、お兄ちゃんとメッセージやりとりしていましたよね? 内容が丸見えでしたよ?」

「まじ?」

「まじです」


 あちゃー、そこも見られていたのか。ならバレても仕方ないなって思った。

 

「気になったことがあります」

「はい」

「なんで今日は私を誘ってくれたんですか?」

「弘人」

「しょうがない、言うしかないな」

「そうだね」


 俺はいすずに、これまでの経緯を話すことにした。話さないと、いすずがモヤモヤしそうだしな。

 俺はいすずの体調がまた優れないように見えたこと。

 少しでも、いすずにリラックスして欲しいと思ったこと。

 青に手伝ってもらったことなど話した。


「なるほど、そういうことだったんですね」

「あぁ、でも内緒で連れまわして悪かったな」

「別に謝らなくていいですよ! むしろ、嬉しかったですから」

「いすずちゃん……」


 いすずは一歩先を歩くと、クルッと振り向いた。


「今日は私のために、ありがとうございます! 今日とっても楽しかったです」


 ニコッと微笑むいすず。その言葉を聞いて、今日のことを計画して良かったと思った。


「お前が喜んでくれたのなら、よかったよ」

「ふふっ、お兄ちゃんありがとうございます」

「そういえば聞きたかったんだけど、どうして俺のメールを返してくれなかったんだ? いつもならすぐに返すのに」


 その瞬間、いすずの顔がさーっと青くなった。


「そ、それは、メールを返すのを忘れていたんです」

「そうだったのか」

「は、はい。そ、それより、もう少し3人で景色を観ませんか?」

「そうだね! せっかく来たからな」


 青がいすずの手を引っ張って、展望台へと向かっていく。

 俺はいすずの態度が変わった理由が気になって仕方がなかった。



 それから3人で、展望台に上がって景色を見ることになった。やっぱりここから見る景色はキレイだった。


「3人で見られてよかったです」

「そうだ、3人で写真撮らないか?」

「いいですね!」

「弘人、もうちょいこっちに寄って」

「こうか?」

「OK! ハイチーズ!」


 3人で景色をバックに写真を撮った。見てみるとなかなかいい写真だった。


「おっいいな、この写真」

「でしょ! 今から送るな」

「はい、お願いします!」


 青に写真を送ってもらい、俺は写真を保存した。


「それじゃあ、そろそろ帰りますか」

「そうですね」

「だな!」


 俺たちは下に降りると、バス停に向かって歩き出す。バスに乗ると、すっかり疲れてしまったのか、青といすずはすぐ眠ってしまった。


「一日動き回っていたら、疲れるよな」


 青は窓側だったため寝やすそうだが、いすずは真ん中なので、こくんこくんと上下に揺れている。あまりに寝にくそうだったので、俺の肩に寄りかかるようにしてあげた。


「すーすー」


 気持ちよさそうに眠るいすずに、俺の口角が上がるのを感じた。


「寂しいから、早く家に帰って来いよ」


 なんとなくその言葉をいいたくなってしまった。本人に聞かれたら、めちゃくちゃ恥ずかしいけど!


 いすずの頭を撫でてやると、いすずは気持ちよさそうな顔をしているのだった。





 しかし久しぶりにいすずと話したとはいえ、それからもいすずが家に帰ってくることはなかった。


《いすず、今日も帰ってこないのか?》

《仕事が立て込んでて、また今度帰るよ!》


 連絡してもはぐらかされるし……一体どうしたんだろうか?


「はぁー、原因はなんなんだ?」


 まったく思いつかない。

 いすずが居ないと家が広く感じ、寂しい気持ちになった。前はこんなこと思わなかったのにな。


 ソファーに座りながら考えていると、カタンと外から音がした。おそらくポストに何かを入れられた音だろう。


「何か届いたのか?」


 ゆっくりソファーから起き上がると、俺は外に出た。ポストの扉を開け、中に入っていたものを取り出す。中には分厚い封筒が入っていた。


「なんだこれ、宛先は……いすず宛か。後で連絡しないとな」


 封筒を持って家の中に入ろうとした時、どうやら封のテープが剥がれかかっていたようで、中のものがバラバラとこぼれ落ちた。


「ま、まずい、早く拾わなきゃ! って……は?」


 俺は中のものを見て驚いた。

 だって全ての写真に、いすずが写っていたから。

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