第28話 いすずの写真集

 テストも終わり、夏休みまではおだやかな日々が続いた。何にもない日っていいよな、のんびりできて。

 ちなみにいすずは仕事で忙しいのか、家に帰ってこなかったので、1人の時間がつづいた。

 まったりできるけど、少し寂しくもある。


「(居ないと居ないとで、寂しくなるな)」


 まぁ、本人には言わないけど。


「お兄ちゃん寂しかったの? いすずが慰めてあげようか? キャハハ」


 そこまで想像をして、頭を振った。言ったら言ったでめんどくさそうだしな。


 俺は誰も居ないことをいいことに、床の上をゴロゴロと転がった。


「今日は何しよう。勉強しちゃったしなー」


 ゴロゴロ。


「アニメ見る気分でもないし」


 ゴロゴロ。


「退屈だなー」


 退屈すぎて、さっきからあくびが止まらない。寝るのもいいけど、寝るのはなんかもったいない気がした。


「(どうしようかなー)」


 なんて考えていた時だった。

 ピーンポーンとチャイムが鳴った。


 なんだ? なにか宅配が届いたのか?


 ゆっくり床から立ち上がると、俺は玄関へと向かった。


 ピーンポン。


「はいはーい」


 扉を開けると、そこに居たのは宅急便の人だった。


「こんばんわ、猫丸宅急便です! 日ノ出さんですか?」

「はい、そうです」

「お届け物です!」

「ありがとうございま……おっ!?」


 宅急便の人に渡されたのは、なかなか重い箱だった。宛名を見ると俺の名前が書いてある。


 俺なにか頼んだっけ? 頼んだ記憶がないんだけどな?


 贈り主を見ると、義母の名前が書いてあった。どうやら義母から俺への贈り物らしい。


「何が入ってるんだ?」


 気になった俺は、リビングに荷物を運んだ。そしてカッターを持ってくると、箱を開いた。


「げっ」


 中には新聞紙で包まれた何かがあって、新聞紙を開くとそこには写真集が大量に入っていた。

 タイトルに"は星夜いすず"と書かれていて、表紙には白いワンピースを着て微笑むいすずの姿があった。


「なんで鈴さんは、俺にこの写真集を送ってきたんだ?」


 別に欲しいとか言ってないんだけどな。送ってきた理由については、メールしておこう。


「暇だし、自分の部屋に戻ろうかな」


 写真集をテーブルの上に置いて、自室に戻ろうとした。その時だった。


「なんで、私の写真集をリビングに置いていくの!! おりゃあ!!」

「ぐふっ!?」


 いきなり強い力で横に飛ばされた。


「(な、なんだ!?)」


 倒れながら飛ばした相手を確認すると、そこにいたのはいすずだった。どうやらいすずに蹴られたらしい。


 いすずは蹴りを入れた状態で立っていて、下着がモロ見えだったことは内緒だ。


「(いすず、白い下着つけてんのか……って、俺は何を考えているんだ!?)」


 焦る俺に対して、いすずはゆっくりと足を地面におろした。そして、キッと睨みつけてくると、俺に向かって指を指してきた。表情や態度からして、どうやらお怒りのようだった。


「お兄ちゃんのバカ! 普通妹の写真集が届いたら舐めまわしてでも見るでしょ!! なのに、見ないだなんて!」

「いや、普通妹の写真集なんて興味ないから!? ってか舐めまわして見るわけないだろ!?」

「興味ないだって!? あの有名アイドル星夜いすずの写真集だよ? 普通興味が湧くでしょ!!」

「星夜いすずの写真集でもだ。妹の写真集見るのなんか小っ恥ずかしいし」

「だから、お兄ちゃんは童貞なんだよ!」

「それ、関係あるか!?」

「とにかく私の写真集を見てよ! すごくいいデキだから!!」


 いすずはテーブルに置いてあった写真集の一冊を手に取ると、俺に渡してきた。

 

「いや、いいから」

「だめ! 早く受け取って!」

「えー」


 受け取りを拒否するもいすずの圧が強くって、結局写真集を受け取ってしまった。

 仕方なく俺はソファーに座りながら、いすずの写真集を見ることにした。いすずはというと、俺の後ろから写真集を覗きこんでいる。


「さぁさぁ、早くめくってよ!」

「わ、わかったって。そんなに急かすなよ」


 とりあえずいすずに言われた通り、写真集を見るしかない。

 俺は写真集の表紙をめくり、いすずの写真集を開ける。


「見て見て、かわいいでしょ?」

「ソウダナ」

「あはは、なんでカタコトなのかな?」

「痛い、痛いって!?」


 後ろからギューっと頬をひっぱられた。めちゃくちゃ痛い。


「かわいい、かわいいです!」

「よろしい」


 パッと頬から手を離され、なんとか痛みから解放された。いててっと俺は頬をさすった。


 暴力妹め!


「お兄ちゃんこの写真も可愛いでしょ? ドレスとか着たんだよ」

「たしかに、この写真いいな」

「でしょー!!」


 パラパラと写真集をめくっていく。

 写真集にはさまざまの姿が映されていた。どの写真も星夜いすずらしい写真で、清純派アイドルといった写真が多くあった。


「清純派アイドルっぽい写真ばかりだな」

「ふふふ、最後のページ見て見て」

「最後のページ?」


 言われた通り最後のページを見てみる。


「なっ!?」


 俺はその写真を見て驚いてしまった。だってそこには、水着を着たいすずの写真があったからだ。

 浜部で太陽の光に当たりながら、いすずは白いビキニを着て、妖艶なポーズをしている。(主に胸が強調されている)

 今までの清純派アイドルっぽい写真とは、打って変わっていたのだ。

 いすずのそんな姿を見てしまい、恥ずかしさから顔が熱くなった。


「どうどう? カメラマンさんのリクエストで大人っぽい写真を撮ってみたんだ!」

「……」

「あれあれ、お兄ちゃん。まさか、この写真にやられちゃった?」


 いすずはクスクスと笑うと、俺の耳に顔を近づけてきた。いすずの息が耳にあたり、くすぐったい。


「普段のいすずと違って、とってもエッチだからね。お兄ちゃん反応しちゃったでしょ?」

「ば、するわけ」

「嘘、だって顔真っ赤っかだよぅ?」

「っ!」

「お兄ちゃん素直になりなって。私の写真よかったでしょ?」


 まぁ、悪くないかと聞かれれば悪くないけど。

 いやむしろ、めちゃくちゃいいと思ってしまう自分もいた。でも、本人にいうのもしゃくだし。


「お兄ちゃん、やっぱりこういう写真が好きなんだー」


 ってからかわれそうだしな。


「ふ、普通かな」


 格好つけてそういうと、いすずはいきなり俺から写真集を取り上げた。


「はぁー!? どこが、普通なの!! こことか、エロくて最高じゃん」

「ちょっ写真集押し付けるなって!?」

「ほら、ここなんてギリギリで撮ったんだから!!」

「わ、分かったから」


 グリグリ写真集を押し付けられ、もう大変だった。この状況をどうにか打開する方法はないのか? そう思った時、いすずの顔に赤みがさしていることに気がついた。


「ほ、ほら、これなんて胸が見えそうで……」


 どうやらからかってはいたものの、自分の水着写真を見せるのは恥ずかしいみたいだった。

 よくよく写真のいすずを見れば、恥ずかしそうな顔をしていた。


「いすず、この写真を撮った時どんな気持ちだったんだ?」

「べ、別に普通だけど。普通に撮っていましたけど!?」

「そうか?」


 俺は後ろを振り向くと、いすずに手を伸ばした。そして顎に手をやると、顎クイをした。


「かなーり、顔が赤くなってるけど……本当は恥ずかしかったんじゃないか?」

「うっ」

「恥ずかしいのに、こんなエッチな写真を撮るなんて……もしかして、見られて興奮した?」

「にゃっ!?」

「変態だな、いすず」

「ち、違うもん」


 いすずはさらに顔を赤らめると、プルプルと震えていた。


「わ、私はお兄ちゃんだけに見てもらいたくて」

「えっなんで俺」

「そんなの、好きだか……バカ!!」

「いたっ!?」


 ガブリといすずに手を噛まれて、顎クイしていた手を離してしまう。


「お兄ちゃんのバカ! ざこ!」


 いすずはそれだけ言うと、部屋に戻っていってしまった。


「わ、私はお兄ちゃんだけに見てもらいたくて」

「好きだか……バカ!!」


 その言葉を頭で繰り返せば繰り返すほど、一つの結論にしか辿り付かなかった。


 まさかな。


「とんだカウンターを喰らったな」


 とりあえずいすずの写真集は、箱にしまっておいた。次の日、またいすずに怒られることになったんだけどな。

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