第26話 体調不良
「はい、テスト回収してください」
先生の声が、教室内に響き渡る。その声にクラスメイトたちは、どこか安堵したような顔をしていた。なぜなら今、すべてのテストが終わったからだ。
俺はものすごくウキウキしていた。
もう今の気持ちは、最高だ!! 叫びたいくらいだった。
あとは、テストが返ってくるまで待つだけだけど……手応えからして赤点はとっていないだろう。
「(今日はパーっと過ごすぞ! キラ☆ルリ見て、ゲームして、漫画読んで…。)」
楽しみがたくさんあり過ぎて、久しぶりに楽しかった。
「(そうだ! コンビニで、お菓子買っちゃおう)」
俺は学校が終わると同時に、コンビニへ行くと大量のお菓子を買った。
これで準備万端だ!
「たしか、今日はいすずは学校に行ってるし誰もいないはず。リビングで、アニメ観ちゃおうかな」
なんて考えながら玄関を開けてびっくりした。
「い、いすず!?」
なぜならいすずが、廊下で倒れていたからだ。
俺は慌てて近寄ると、いすずに触れた。
「いすず、大丈夫か! いすず」
「お兄ちゃん」
「意識はあるな。一体どうしたんだ?」
「熱、があって、フラフラしてそれで」
言われて気がついた。よく見るといすずの顔は真っ赤で、呼吸が乱れていた。汗も出ているし、おでこに触れてみると熱かった。
「ここにいたら熱が悪化すると思うから、移動するぞ!」
「う、ん」
俺は急いでいすずをお姫様抱っこすると、そのままいすずを部屋に連れていった。
いすずは熱が出ているせいか、いつもの威勢はなかった。
「はぁ、はぁ」
「えっとこういう時は、水や薬に、頭を冷やすものを持ってきて」
「はぁ、はぁ」
「と、とにかく無いものは急いで買ってこよう。待っていてくれ、いすず!」
俺はいすずの部屋を出ると、近くにあるドラッグストアへ向かった。
「冷やすもの、薬、飲み物も買った! これで、オーケーだ!」
早く家に帰ろう。
会計を済ませたと同時に、俺は家まで走った。
そして買ったものを持って、いすずの部屋に戻ったのだ。
「いすず、戻ったぞ」
「はぁ、はぁ」
「氷枕用意したからこれを使ってくれ、あと頭に濡れタオルのせるな」
「んっ」
「ごめんな、冷たかったよな」
「大丈夫」
「そっか。それと、薬飲んで欲しいんだけど、何か食べれるか?」
「ゼリーとかなら、いけるかも」
「分かった、ゼリー買ってきたから食べて薬を飲もうな」
一度いすずに背中を起こしてもらい、すくったゼリーを食べさせた。
「あーん」
「んっおいしい」
「ならよかった」
「お兄ちゃん、もっと食べたい」
「わかった。じゃあ、もう一度、あーん」
熱のせいなのか、少し甘えん坊のいすずにゼリーを食べさせ、薬を飲んでもらった。
「大丈夫か、いすず」
「うん、お兄ちゃんありがとう」
「どういたしまして」
いすずは薬を飲んだし、あとは眠るだけとなった。いすずの体に毛布をかけると、俺はいすずの頭を撫でた。
いすずは気持ち良いのか、嬉しそうな顔をしていた。
「いすず、今日はゆっくり休もうな」
「うん」
「おやすみ、いすず」
「おやすみ、なさい」
俺はいすずが眠りにつくまで、頭を撫で続けた。しばらくすると、いすずは眠ったのか、目を瞑った。
「早くよくなれよ、いすず」
俺はいすずのおでこにのせたタオルを取り替えたり、いすずのそばにずっといた。
「(いすずが熱を出したのは、きっと俺のせいもあるからな)」
深夜まで勉強を見ていてくれたいすず。その上学校に行ったり、仕事までこなしていたのだ。疲れがでないわけないのだ。
俺はそれからずっといすずの側を離れなかった。
気がつけばそのまま寝てしまったようで……目を覚ますと誰かに頭を撫でられていた。
「んあっ?」
「お兄ちゃん起きた?」
「あっいすず」
どうやら頭を撫でていたのは、いすずだったようだ。
顔を上げると、いすずと顔が合った。昨日よりは体調が良さそうだった。
一様確認しないとな。
俺は顔を上げると、いすずのおでこに自分のおでこを合わせた。
「お、お兄ちゃん!?」
「うん、熱はないみたいだな。でも、顔が赤く……」
「こ、これは、ただいきなりだったからびっくりしただけだから!?」
「そうか?」
おでこを合わせたが、熱は無さそうだしよかった。
俺はホッとして、おでこを離した。
「熱が下がったみたいだし、安心したよ」
「お兄ちゃん」
「お腹空いてないか? 空いてるなら、お粥とか作ってくるけど」
「ありがとう、お兄ちゃん。お願いしてもいいかな?」
「あぁ」
俺は頷くと、台所へ向かった。台所へ着くと簡単におかゆを2人分作り、2階へ戻った。
「いすず、作ってきたぞ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「熱いから気をつけろよ」
「うん」
いすずにおかゆを渡し、一緒におかゆを食べる。
「んっ美味しい」
「そうか、よかったよ。梅干しいるか?」
「うん、貰おうかな」
いすずと話をしながら、食事を進めていく。
「(よかった、美味しそうに食べてくれて)」
そのことに、ホッとした。
数十分後、2人ともおかゆを食べ終わった。食べ終わると、俺はいすずから器を受け取った。
「(さて、いすずも調子良くなったし、部屋から出ますか)」
「いすず、お義母さんが言ってたんだけど、今日はゆっくり休めってさ」
「お母さんに連絡してくれたの?」
「あぁ、仕事のこともあるし連絡しないとなって思ったんだよ」
「お母さんに伝わったなら、一安心だな」
実はいすずの母親は、いすずの所属する芸能事務所の社長さんをしていた。なので、いすずの母に連絡をとれば事務所にもその連絡がいくというわけだ。
いすずはベッドの上で体育座りをすると、はぁーっとため息を吐いた。
「けど、今日のお仕事休んじゃったな。はぁー、申し訳ないな」
どうやら落ち込んでいるようだった。
「(いすず、責任感強そうだもんな)」
責任感が強いいすずだから、1日休んだことを悔やんでしまうのだろう。それに、撮影にはいろんな人たちが関わっているからな。
いつもとは違って覇気のないいすず。俺はいすずの頭をポンポンした。
「今日は、社長自ら休んでいいって言ったんだから、ゆっくり休め」
「でも」
「はいはい、しのごの言わず休みましょうね」
「わっ!?」
俺はいすずをベッドの上に倒すと、そのまあ寝かせた。いすずは病み上がりのせいか、意外と大人しい。
「俺は下に行くから、何があったら呼んでくれ」
「あ」
そういって部屋を出ようとしたのだが、いすずに腕を掴まれた。
いすずの顔は不安そうな顔をしていた。まるでひとりぼっちで寂しい子どものようだった。
「お兄ちゃん、その」
「どうかしたか?」
「もう少し、ここにいて欲しいな」
「ん」
俺は頷くと、いすずのベッドの横に座った。
「少しだけだぞ、やらなきゃいけないことがあるから」
「あ、ありがとう!」
いすずはすごく嬉しそうな顔をしていた。その顔を見ただけで、その選択をしてよかったと思えた。
俺はいすずが眠るまで、側にいて話を聞いていた。仕事のことや学校のこと……たくさんの話を聞いていた。
が、いつの間に眠ってしまったのか? いすずのベッドに顔をのせて眠っていた。
「お兄ちゃん」
眠っている時、微かにいすずの声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん」
返事をしようにも、眠くて返事をすることができなかった。
「大好きだよ」
けどその一言を聞いた時、これは夢なんだと自覚した。
だって、いすずが俺のことを好きになるわけないから。そう考えたのだった。
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