第22話 期末テストがやって来た

 体育祭も終わり、残すは夏休みだけになった7月。

 夏休みになったら、徹夜し放題じゃん!あれして、これして。


 なんてウキウキ考えていたんだけど、俺は大切なことを忘れていた。


「3週間後に期末テストがあるから。しっかり授業を聞くように」

「(絶句)」


 期末テストがあるの忘れてた。

 期末テストがあるのを忘れてた(2回目)。

 期末……


 俺は絶望に打ちひしがれていた。

 別に勉強は苦手じゃないけど、好きではなかったからだ。


「(それに最近も授業でれないこと多かったから、まずいな)」


 さらに追い打ちをかけるように、先生がいった。


「ちなみに赤点をとったやつは、夏休みに補修があるからなー」

「「えー」」


 それはあまりにも残酷な話だった。もし赤点をとったとしよう。そしたら、どうなるか。


「(俺の計画した夏休み計画がパーになってしまう! それだけは、避けなくては!!)」


 なんとか期末テストで赤点を回避するしかない。そのためには、勉強するしかなかった。


「(今日から帰ったら勉強をしよう。当分アニメも我慢するしかない。まぁ、キラ☆ルリだけは観るけれど)」


 こうして期末テスト、赤点回避のための戦いは始まったのだ!


「うぅ」


 のだが、5分でリタイアしそうになっていた。  

 帰宅後、自室で勉強をしようと思ったのだが、数学の教科書を開いて絶句した。


 ほとんど、わからない(オワタ)。

 分からな過ぎて、逃げ出してしまいそうだった。


「ど、どうしよう。テスト3週間前なのに。こ、これはなんとかなるのか?」


 いや、気合いでなんとかするしかない!


 とりあえず教科書を見ながら解いてみることにした。


 1時間後、俺は自室でうなだれていた。暗記系は得意だけど、数学とかワケわからなかった。


「困った、このままだと数学赤点とってしまう」


 誰かに頼んで、勉強を教えてもらうか?


 そこまでふと考えたのだが、頼れる人があまり居ないことに気がついた。

 青は残念ながら赤点常習だし、委員長は最近仲良くなったばかりだけど、頼るのもな……。


「どうしよう、俺頼れる人間片手しか居ないんだけど。はは、終わった、何もかも終わったんだ」


 まだ、3週間前だけど心がポッキリ折れてしまった。


「はは、はは」


 1人寂しく自室で笑っていると、自室の扉が開いた。


「ふんふんふーん! お兄ちゃんただいま♪って、お兄ちゃん何やってんの!?」


 どうやらいすずが帰ってきたみたいだ。俺を見て、驚いた顔をしている。


「なにって、人生に絶望していたんだ」

「どうかした? なんかあったの?」


 珍しく心配そうな顔をしているいすずに、ことの経緯を話した。


「実は期末テストがやばいんだ」

「は? 期末テスト」


 いすずはポカーンとした顔をすると、「なんだー」っと呆れたような顔をした。


「そんなことで悩んでたの? バカじゃないの?」

「ば、バカだと!? 俺、真剣に悩んでんのに!」

「バカはバカでしょ。だって、まだ3週間もあるんだよ。頭に詰め込めば大丈夫だって!」

「うぅ、けど自力では解けないから困ってるんだよ」


 泣きながらいすずに、誰にも頼れないことを伝えた。いすずは「ふーん」といったが、なぜか口元はニヤけていた。


「もぅ、お兄ちゃんはしょうがないんだから」

「うぅ」

「だったら、私が教えてあげるよ!」

「うぅ……はっ? 今なんて言った?」

「だから、私が宿題を教えてあげるって言ってるの!」


 えっへんと腰に手を当てて笑ういすず。


「(いやいやいやいや)」


「お前、俺より1つ年下じゃないか!? 2年生の問題が分かるわけ」

「えっわかるよ?」

「えっ」

「えっ」


 なぜかいすずは、不思議そうな顔をする。話を聞くと、どうやらいすずは現在高校3年生の勉強をしているらしい。


「いすず様だからね、これくらいやらないと!」

「さっさすが、いすず様!!」

「わっ! お兄ちゃん!?」


 俺はいすずの腰に抱きついた。


 ふん、年上のプライドとかどうでもいいね! これでなんとか赤点を回避することができるかもしれない!


「ありがとう、いすず!」

「もぅ、お兄ちゃんったら」


 いすずは呆れた顔をしつつも、嬉しそうに笑い……


「じゃあ、お兄ちゃん始めようか」

「何を?」

「決まってるじゃん、テスト勉強だよ?」


 なぜかいすずのその言葉を聞いた瞬間、ゾクっと寒気がした。それと同時に体がガタガタと震え出す。


「(? どうしたんだ、俺の体?)」

「お兄ちゃん、テスト勉強はお兄ちゃんの部屋でやるよ」

「あっあぁ」


 その答えが分かったのは、1時間後のことだった。



「お兄ちゃん、なんでこの問題が分からないの?」

「もう一度、この問題を解いてみようか」

「えっ喉が渇いたの? この問題が解けるまで、あげないよ♡」


「(ひぃぃ!?)」


 1時間、俺はいすずに勉強を教えてもらった。のだが、いすずは超スパルタだった。超スパルタ過ぎて、俺は怯えていた。


「(なんで、さっき震えたのか今なら分かる。あれは、"防衛本能"だ)」


 防衛本能とは、自分を守る本能のことだ。どうやら勉強を教わる前、俺はなにかを感じとったらしい。


「うん、この問題解けたね。えらいね、お兄ちゃん」

「はぁはぁ、み、みずぅ」

「はい、どうぞ」


 俺は渡された水を一気飲みした。めちゃくちゃ上手かった。


「はぁはぁ、もう1杯欲しいな」

「もう1杯欲しいの? だーめ♡ もう1回この問題を解こうね、お兄ちゃん」

「(鬼だ)」


 どうやらいすずは普段はドMだけど、人に教えるとなると妥協をしないらしい。つまりドSになるということだ。


「なんか、変なこと考えてなかった?」

「べ、別に」

「そう、なんだかまだやれそうだしもう一問この問題を解こうか!」

「鬼! 悪魔!」

「もう1枚追加で」


 いすずに解く問題を増やされて、もう頭が限界だった。


「(うぅ、勉強辛いよ。早く解放されたいよぅ)」


 泣きながら勉強を解いていると、いすずが「コホン」と咳払いをした。


「ま、まぁ、テスト勉強頑張ったら、ご褒美あげるよ」

「ご褒美、一体どんな?」

「わ、私ができることなら何でもしてあげるよ」


 顔を赤らめながら、自分の髪をいじるいすず。


 なんでもか、じゃあなんでもいいなら。


「なんでもいいんだよな」

「う、うん」

「じゃあ、駅前のケーキバイキング奢りで!」

「私、心の準備はできてるから……ってバイキング!?」

「あそこ行ってみたかったんだけど、男1人だと入りづらくてさー。いやー、助かったわ」

「……」

「あれ? いすず?」

「別にいいけどさ、別にいいけどさ」


 なぜか頬を膨らませて、ご機嫌斜めないすず。


「なんでもって言ったら、普通エロい要求とかするんじゃないの? なのにしないだなんて」


 ブツブツと何かを言い出したし。まじで、なんなのか分からない。


「もうキレた! お兄ちゃんこの問題全部解くまで寝かせないから!!」


 近くにあった問題集の束を机にのせられる。


「はっはぁ!? なんて横暴なやつなんだ!」

「乙女心が分からないお兄ちゃんが悪い!」

「俺、なにもしていないんだけど?!」


 その日は、深夜まで問題を解かされつづけた。おかげで寝不足だし、数式を見るのも嫌になった。


 しかし、いすずは止まってはくれなかった。毎日毎日俺の部屋におしかけては、スパルタな指導をしてきたのだ。


「はーい、お兄ちゃん。今日も数学を解こうね♡」

「(絶望)」

「ふふ、たっくさん問題を考えてきたんだ! 今日も夜まで一緒に居ようね!」

「いやーっ!?」


 早く期末テスト終わんないかな?!

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