第5話 猫かぶりな、いすず様

 時刻はお昼頃。購買で、ジャムパンを購入した。自販機でいちごオレをさらに買い、屋上へと向かう。


 屋上には鍵がかけられているが、持っていたカギ(極秘で入手した)で屋上の扉を開ける。ガチャリと扉が鳴る。俺は屋上に入ると転落防止のためにつけられた柵に寄りかかった。


「腹減ったし、眠い」


 ふわぁっと欠伸を噛み締める。寝不足だし、朝から大変だったからな。(主にいすずのことで)


 買ったジャムパンの袋を開けると、はむっとジャムパンを頬張った。

 甘いもの最高ー、めちゃくちゃうまい。


 ハムハムとパンを食べながらスマホを見ていると、SNSのトップに"いすず様"と書かれている。


「なんだ、なんだ?」


 気になって見てみると、どうやら今日のお昼の番組にいすずが出演しているらしい。


 いすずが出演しているのは"お昼んジャー"という人気番組で、トレンドや人気の歌なんかを紹介したりとバラエティ感の強い番組だった。

 よく人気お笑い芸人や俳優や女優、アイドル、歌手が出演したりしている。


 気になったのでいすずが出ているところを見てみることにした。


「では、次のコーナーにいってみるんジャーー!」


 見てみるとどうやら次のコーナーに移るところらしい。


「次のコーナーは、人気アイドル星夜いすずちゃんの歌のコーナージャー!」


 うわぁぁ!っと歓声と共に拍手が上がっていく。すると、スタジオへといすずが現れる。

 白を基調とした落ち着いたワンピースに、鈴蘭の髪飾りをしていた。

 いすずが現れると、司会であるジャージャー村川さんがいすずへとマイクを向けた。


「いすずちゃん、新しい新曲出したんだって?」

「はい、今回は恋愛をテーマにした曲です」

「ほほう、恋愛をテーマにした曲はいままで出してきてるけど、今回はどんな曲なの?」

「今回は片想いの切ない想いを曲にしてみました。聴いているだけで切ない気持ちになったり、ぎゅ〜ってなっちゃうかもしれません」

「そうなか! たしかに片想いって胸がぎゅ〜となるよね」

「はい、でもそれだけじゃなくて、片想いの幸せな気持ちも詰め込んでみました! みんなに届いてくれたら嬉しいです」


 いすずは、ニコッと優しい顔で笑った。いつもの生意気な笑顔ではない、清純派アイドル"星夜いすず"の笑顔だった。


「それでは、聴いてください。片想いをしたら、どうして切なくなるの?です!」


 いすずが歌い出すと、世界がしーんと静まったような気がした。

 美しいソプラノで歌われる片想いの歌。

 歳上の青年に片想いをしている少女の歌だった。聴いてるだけで、胸がぎゅーっと苦しくなっていく。

 やっぱりすごいな、"星夜いすず"。


「お兄ちゃん♡」

「ざぁーこ」


 家ではあんな感じだけども……。

 

 歌を歌い終わると、共演者たちにカメラが映った。共演者たちはみんな、いすずの曲に涙をしていた。


「皆さんありがとうございます♪ 星夜いすずでした」


 カメラに向かってお辞儀をしたところを見届けて、俺はスマホの画面を切り替えた。


 清純派アイドルの星夜いすずと、生意気な妹星夜いすず。


「似ても似つかないんだが……」


 なぜ、いすずは猫かぶりをしているんだろうか?


「まぁ、人のことは言えないんだけどな」


 俺は片手に持っていたいちごオレを、ジューっと一口で飲んだ。

 

 

 ゴミ箱にゴミを捨て、教室に戻るとやけに騒がしかった。


「星夜いすず、やっぱりいいよなー」

「さっきの曲、めちゃ感動した!! 絶対新曲買う!!」


 どうやらさっきの昼番組を、クラスメイトたちも観ていたらしい。


「ぐすっ先生もな、若い頃片想いをしていてな〜」


 先生も見ていたようで、自分の甘酸っぱい恋愛話を生徒に絡んでしている。


「すごいな」

 

 どれだけ星夜いすずが、人気なのか改めて再確認をすることができた気がする。


 席につくと、ピロンとスマホが振動した。


「げっ」


 中身をみると、いすずからのメッセージだった。


《お兄ちゃんが寂しがってると思って送っちゃった♡きゃっ》


 どうやらまだ、朝のことを懲りていないようだった。

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