第17話 初盆だけど妻一人で迎え火を焚く



 離檀してしまったのでお盆もなにもないのだが、それでも形だけはと迎え火と送り火を焚いた。

 初盆の頃には墓仕舞いはすんでいて、夫の実家にはお祖父様お祖母様、お義母さんの遺骨が。我が家に夫の遺骨があるような状態だった。

 お義父さんは特に何をする気もないというようで、親戚にもそうふれ回り、初盆らしい準備はせずにすんだ。

 が、なんとなく迎え火と送り火だけはした方が良い気がして。私一人で小雨が降るなか、素焼きの皿に木っ端を入れてパチパチと燃やした。



 夫は雨男で有名だった。本人も「大事な日に雨が降る」「俺が帰ろうとした途端に豪雨になった」と言っていたし、確かに記念に残るような日(結婚式、子供が生まれた等)は、雨だったように思う。葬式の日も、なんだかジメジメ湿っぽかったし。

 雨が降ると、あの人の気配がするようで懐かしいような悲しいような気持ちになった。

 迎え火を焚いている時のふらっと降っては止んでの、シトシトとした静かな雨は、私を本当に悲しくさせた。が、ここでも涙は出なかった。

 卒塔婆も一緒に燃やしていたのでそれなりに時間がかかり、私はぼんやりとしながら火に木を投げ入れ続けた。

 畑を持っている田舎の子供だったので、小さな頃は炎を見るのが楽しく、ずっと見ていられたことを思い出した。

 お正月の初詣でドラム缶に薪をくべて暖をとるところのベンチで、夫と甘酒をすすったことも、ちょっと思い出した。 

 肺に冷たい液体がひたひたと染み込んでくるようで、ため息のような深い呼吸をしなくてはならなかった。

 パチパチと弾ける炎が熱く、煙が目に痛かった。

 どうしてか子供を呼ぶ気になれなかった。一人で淡々と火を焚いて、終わらせた。

 本当に迎え火と送り火しかしない初盆。いつも通りの水とご飯を遺骨の前に捧げる日々。

 後ろめたさがあったけれど、どうにもできず、初盆は日常の中に去っていった。










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