第4話 それでも夜は明けるしご飯も食べる
一日目はほとんど眠れなかった。朝日が目に痛かったし、頭はガンガンしていた。
それでもやるべきことは山のようにあった。
葬儀屋のスタッフさんが本当に丁寧に説明してくれて、サポートもしてくれて、とてもとても良い人だった。
喪主は当然、妻である私がつとめなくてはならない。斎場を決める、お寺のご住職の都合をつける、火葬場の手配。基本的に妻の私と相談しながら決定していくしかない。
頭がぼぅっとする中で、とりあえず葬式が終わるまでは、と、気を張った。
日取りが悪く、友引があり夫の遺体は長めに自宅に安置となったけれど、これは逆にありがたかったのかもしれない。
たくさんの人が、夫に会いに来てくれた。
同僚の人達、友人達、前職の同僚の人達。皆、葬儀前に会いに来てくれた。
夫と若い頃から付き合いのある友人は、何度も足をはこんでくれたり、電話で長々と相談にのってくれたりした。
人懐っこい性格をしていた夫は、気のおけない関係の友人が何人かいて。年末に泊まり年始には初詣に一緒に行くような、そんな人達だった。
彼らは皆、私と子供を気にかけてくれた。それが何よりありがたかった。
二日目には、夫の顔を見れるようになった。最初の晩に電話をくれた先輩にそのことを報告して、ご飯も食べれたことも伝えた。
食べ物の味はまるでしなかったけれど、時間ごとに子供と一緒に食べるようにした。
そう、食べ物。夫が倒れたのが職場だったので、実は職場の人がずいぶんと協力してくれ―私の精神状態を心配して車の運転をしなくていいよう、同僚の人がずっと運転手をしてくれていた―そのおかげで次の日くらいまでの食事は確保できていた。
私は本当に恵まれていた。スーパーのお惣菜部門で働いていたのだが、チーフに夫が急死した一報を入れるや『今週いっぱい、いや来週まで休んで。仕事のことはとりあえず考えなくていい』と即座に言ってくれた。
自分では上手く判断できなくて、すぐ仕事に行けるように考えていたけれど、チーフのこの判断は正しかった。しばらくは、働ける状態ではまったくなかった。
あの時、どれだけ多くの周囲の人たちが私達母子を助けてくれただろう。
とにかく必死で。葬式を終えなくては。死後の処理をしなければ、と、そればかりだったけれど。本当にたくさんの人が助けてくれていた。
私と子供は必死で、ただ必死であの人が死んだという現実と、それに伴う事柄を処理していくしかなかったけれど。
時間というのは平等で明けない夜はないし、生き物というのは図太くできているものでお腹はすくしで、私達は二日を生き延びた。
とにかく夫の身体を焼くまでは。それまではとにかく身体と頭を保たせる。それが私達、母子の当面の目標であり、すべきことだった。
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