第31話 御札

 職場の壁に御札が貼ってある。


 いつ貼られたのかはもう、覚えている者はいない。


 魔除け、厄除けなど忌み嫌われる災難から身の安全をはかるのが御札の効能と思われる。何の問題のない場合には御札など貼る必要などない。


 御札が貼られた理由は?

 いわれは、もちろんある・・・・・


 体力が自慢の同僚が、前触れもなく脳出血で倒れた。


 障害物のない事務室で、元気な女子職員が突然躓き骨折した。


 仕事を終えて帰宅を急ぐ、歩道を歩いていたベテラン職員に、バイクが飛び込み救急病院へ・・・・・


 職員に原因不明の事故や怪我が次々に重なった。事故など全く起こらない状況の中で。


 青信号で走る会社の車に、信号無視のトラックが激突した。トラック運転手の居眠りか酒酔いか疑われたが、原因は不明のままである。


 社内で緊急会議が開かれた。事故対策が検討された。原因不明の事件や事故は、何かの祟りではないだろうか、というのが会議の結論であった。


 厄除けの御札を貼ろうということになった。御札を貼った後に事故はぴたりと止まり、みんなは胸を撫で下ろした。


 恨み呪い祟り、現在の科学で解明できぬことはいろいろと多い。こんなときは、古より行われてきた方法である御札を貼り厄除けを祈る。


 御札の効用は素晴らしい。その後もう何年も不可思議な事件や事故はない。


 爽やかな風が木々を揺らす、秋晴れの日であった。室内には風ひとつないのに、壁にしっかり貼られていたお札が突然落ちた。パラリと・・・・・


 穏やかだった空気が一瞬ざわめき、生臭さが香りたった・・・・・


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