第182話
「それで何か御用でしょうか?」
単刀直入に用件を聞いてみた。駆け引きよりも直球をぶつけて反応を見る方が手っ取り早いことも多い。
「うん……いや? 見かけたから声を掛けただけだよ。……迷惑だったかな?」
「ははは、そんな訳ないですよ」
一瞬戸惑う様な素振りを見せたものの、すぐに舞台役者のような仕草で聞き返してきた。大仰だけどそれが絵になるというか、見られ方を意識するのがうまい人だ。
とはいえ、ちょっとした綻びも見えた。一瞬の戸惑い……あれは、素直に図星を突かれて驚いたと見ていいだろう。さしものキサラギ・ボーライとはいえ、まだ十七歳の学生だ。海千山千の貴族当主とか、狡猾な裏社会の住人みたいにはいかない。
まあ、大体の想像はつく。単純に気になるんだろう。自信があった己を圧倒した相手なんだから。こちらからするとゲーム『学園都市ヴァイス』の知識である程度攻略方法も見当がついていたからこその余裕ではあったんだけど、相手からするとそんなことわからないだろうしね。
「キサラギ先輩は発表会の準備はどうですか?」
まあ突っ込んで聞いても何も答えてはくれないだろうし、適当に話題を変える。
「私は三年だが、問題などないさ。この学園で私を圧倒できる生徒など君くらいのものだ」
「はは……」
入学試験の時の話を持ち出されて、僕としては苦笑いしかできない。さすがにここで「ぶっ飛ばしましたもんねー」なんて言えるほど面の皮は厚くないよ、僕は。
「発表会といえば、外部から色々な人々も来る。君達にわざわざ言う事でもないだろうが、羽目を外したりはしないようにな」
「ええ、わかっています」
知らない大人が訪れてきて、発表会の結果によってはちやほやされたりもする。特に庶民の出の生徒の中には、浮かれて問題を起こす者もいるのだろうね。注意事項自体はわかるけど、確かにわざわざいうようなことか? 僕らはこれでも貴族子弟で、そういう教育は受けてきているなんて言うまでもないことだろうに。
「何か……あるのですか?」
グスタフがさっきの僕の様に直球で突っ込むと、キサラギは「む……」と微妙な表情を見せる。言うか言うまいか悩んでいる?
「いや、なに、最近どうも街の方では薬がどうのという噂を聞くものでね。こうした機会というのは生徒会長としてはぴりぴりとしてしまうのだよ」
「なるほど」
うぅん、学園の方にまで噂が届くほどになってしまっているのか。
まだ学生に蔓延まではしていないと思うけど、そうなると厄介だしそっちの仕事も急がないといけないな。
薬……、それは僕らもヤマキ一家と連携して追っていたものだ。ある特殊な魔法薬は使用すると高揚感を得られるとともに、強い依存性を示す。まあ麻薬の類だ。
古典的だけど、そうした薬をばら撒くのは裏社会の縄張り争いにおいては有効な戦術で、される方からすると大変に頭の痛いことだ。
なにせ依存性が強い薬なのだから、それに憑りつかれた連中は払える金がなくなれば、何をしてでも手に入れようとする。ばら撒いている方からすると、便利な“火球”――使い捨ての攻撃要員――の出来上がりという訳だ。
当然現在のヴァイス裏社会で顔役といえる立場にあるヤマキがそれを許すはずがなく、僕らも見過ごせないから協力して探っていたんだけど……、そうか、学園の生徒会長が警戒する程度には生徒にもその影が及びつつあるのか。
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