第2話 

「――ほーんと、薫子かおは無邪気だったわねー♪」


 思い出し笑いの表情で独りごちる母。


「はいはいすいませんねー、こんなにひねくれて育っちゃって」


 口を突き出してぶんむくれる振りで返す娘。


「とは言ってもね、無邪気すぎるのもそれはそれで考え物よー。あんたは小さい頃は色々と不安定だったから」

「今でも色々と揺れ動くお年頃なんだけど?」

「そーいう意味じゃ無くてね。あんたの場合は存在自体のが――って、"色々と"?"揺れ動く"?」

「な、何よママ」

「――ほぅ、やっぱり昨夜ゆうべ、何かあったわね?」

「べ、べべべ別に何も、ななな無いからっ!! いや、コスプレ大会は優勝できたけどさっ!!」

「――その後、何も無かった?」

「あ、後……って……別に……」

「――ふ~ん、ま、そういうことにしといてあげましょ」

「うぅ……ママの意地悪ぅ~」

「はーいはい、いーからさっさとお風呂入ってらっしゃい」

「はーい」


 浴室へ向かった娘を見送って、母は仏壇に手を合わせる。


「――お義父とう様、お陰様で貴方の孫娘は、薫子かおるこはこんなに大きくなりましたよ。流石には、に戻れなくなるかと覚悟をしましたが――いずれ成長して立派にで貴方の立派な後継者となりましょう。その日までどうか、見守り下さい――偉大なる無貌の神、暗黒のファラオよ」


 仏壇に傅くように祈りを捧げる母の影には、千の仔を孕みし黒山羊の姿が揺蕩っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カオティック・かおちゃん ひとえあきら @HitoeAkira

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ