第4話 うふ〜義母の野望〜


リノベーション会社の人間がやってきた。夫は俺は反対したのだから、お前がやれ、お前が賛成みたいな顔をしたから、お前のせいで母さんが調子に乗った。

だからお前がやれ、と言った。


義母が連れてきたリノベーション会社の人は、まるで新興宗教みたいだった。


『家をどんな風に改築したいか=どんな生き方をしたいのか=そもそも自分は誰なんだ』


表紙にそう書いてある冊子を開いた。


『あなたは誰なのか』


リノベーション会社の人は、

義母に質問をした。


『私は、、、佐藤君代、、、ですけど』


『佐藤君代さん、あなたは、誰ですか?』


『私は、、、82歳のおばあちゃんですね、、うふ』 


うふ?


何うふって?

っていうか、これ何?

気持ち悪いったら。


『さびしい人が集まるカフェをやりたい、とおおっしゃったけれども、それは何故なのでしょうか』


義母は、またうふ、と言った。

こんなに見つめられ、質問をされたことなど、

もう何十年もなかったはずだ。


『自分と同じようなお年寄りとか、子どもたちとか、近所の人が、集まる場所にしたいんです。何時間でもいて良い、何をしていてもいい、居場所を作りたいんです。』


『なるほどですね。でもそういう居場所って、いまはかなり行政の方で用意してくれていますよね、児童館や市民センター、あるいは、子ども食堂など、、、』


『わたしの料理を食べさせたいんです』


世間知らずの義母の野望に、あたしは呆れてものも言えない。


義母の料理?


芋がらのお浸し、蕗の煮物、甘夏のジャム、

えーっと、


そんなもん?


彼女が進んでキッチンに立つのは、それらの旬の時のみ。


あのー、その三つで何ができますの?

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夫婦リノベ エメ @emesky

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