『第四話』

「まったく、間一髪だったな。この俺様が自慢の愛機『サンクチュアリ』で急遽駆け付けなかったらお前らの命運はここでジ・エンド。相変わらずのクレイジーぶりだよ。ちょっとはコンセンサスの利いたシビックなプランを立てて行動しろよな? あ、あとマジで晩飯は奢れよ。金ねンだわ」


「お前こそ相変わらずだよマハト。そう言いながらも俺たちが本当の危機に陥った時はいつだって、時と場所を選ばずに駆けつけてくれる。ただ、それも実は帝国の手先、忠実なしもべである真の姿を隠すためのカモフラージュであるんじゃないかと、俺は密かに疑っていたんだ。けど、そんな疑いも今、吹っ飛んだよ。もし本当に帝国の密偵だったとしたらわざわざ助けに来ないもんな? いや待てよ? そう思わせることで俺たちの信頼を勝ち取り、今後、真の目的を果たすための布石としているんじゃ……? ふふふ、まさかな……でも、今はどうでもいい。もし本当にそうだったとしても、その時はその時だ。俺たちの……いいや、俺の本当の目的を邪魔する奴は、何であろうと打ち倒す、それだけさ」



 城の上空にダークホバリングで滞空する飛行船『サンクチュアリ』から降ろされた縄梯子を登る、エルシーズ、メルアリー、デガッド、ギダルフを、にこやかに迎えるマハト。彼は本当は敵かもしれないし、味方かもしれない。敵なんだけど途中で味方になる可能性もあるし、そう思わせておいてやっぱり敵でした! という、想像もしたくない未来もありうるのだ。そんなエルシーズの不安を表すように、縄梯子が揺れている。


「ようし、全員登ったな? ああギダルフじいさんがまだか。これだから頭でっかちの魔法使いってのは困る。少しは俺のように鍛える必要があるな。観ろこの華麗な上腕二頭筋を。なだらかでありながらも荘厳に膨れ上がった、山脈の如き僧帽筋を」


「はあ、はあ……うッ、げほげほォ! はあ……おごっっふ! ゲホゲホゲホ! うええ! おおぉ……うべぇ! あああ~、おぼふ! げっほ! んぅん……! げほ! げほっほ! げほほほ! あ~! げっほ!」


 ギダルフが無事に登り切り、一行を乗せた飛行船が、周辺の民へ180%という悪質な課税を強いてきた悪徳領主の城から離れたその時。


 城は大爆発を起こした。


 爆炎と火柱が次々と上がり、全身火だるまになった城の兵士たちは苦痛に悶えながら次々と倒れていく。家族であろう女子供だけは逃そうとその名を呼びながら必死に駆け回っている者もいる。


「これで悪名高きワルリョーシュ公も終わりね。何の罪もない無辜の民を長年に渡って苦しめてきた罰よ……何故、私がこんなにも支配階級を憎むのか、それは今は言わない。 複雑怪奇な税制のせいでついうっかり申告漏れを起こしてしまったために課せられた追徴課税に追われ、父はお小遣いをゼロにされてしまった……ゼロよ? そのくせ、母は父が必死に働いてる間、ママ友とランチを満喫していた。そんな家庭に生まれ育った私は両親に頼ることなく奨学金を使って魔法学校に入り、そしてトップの成績を収めて卒業し、その莫大な奨学金を返すために今こうして戦っているという秘密は、まだ仲間には打ち明けていないの……でも、いつか。いつかは話すわ。その時、あなたは受け入れてくれるのかな……」


 城の最期に目を細めたメルアリーが独り言ちる。

 まだ爆発を続けている城の光景に、幼い時に家族で行った花火大会の情景を思い起こしていたのだ。まだ家族が家族として機能していた頃の、最良の思い出――。


「――ああ邪魔だぞ前のおっさん! 見えねーだろが。ちっとは後ろに気を使え!」

「んなこと言われてもこの人混みだ動けねぇンだよ! いった! てめえ足踏みやがったなコラ」

「ああ? やんのかコラ」

「あーやんのかオラァ!!」

「おー上等だコラァ!!」

「やめてくださいよお父さん! メルアリーが見てる前で!」

「ぱぱー! やっちまえ!」

「こらメルアリー!」


 あれは楽しかったなぁ。


 それぞれの想いを乗せたサンクチュアリは、爆発する城から離れ、月夜を飛んでいく――。


 


 こうして、異世界冒険プロトコルブレイカーズの物語が、今ここに始まった。








――――――――


「まだ続くの? これ……」

 

 世の中には『喜劇』『悲劇』と呼ばれるジャンルがある。単純に、見ていて楽しい、見ていて悲しい、といった感情になるための娯楽だ。さしずめこれは『怒劇』と言ってもいいものなのかもしれない。

 もーなんか誰にも遠慮せず、全く真剣に受け止めずに思う存分ぷんすか怒ってもいいという作品。それを読者に許してくれる作品――これはきっとそんな人間の感情の作用を狙った高尚な目的に基づいた作品なのである訳ねーだろバカじゃねーの。


 新しく登場したマハトとやら、突然英単語交じりになった。キャラ付けのつもりか。登場したばっかじゃん。なら最初からで良かったじゃん。ルー〇柴みたいだぞ。いや知らないのか。まあさあ、なんか途中でキャラ変わるってのはままある事だけどお。そーゆーのはよくあるわ。でも二言目にキャラが崩れるとは思わなんだ。


 まあ、なるほどね。こいつはいわゆる裏切り者キャラ。しかも金欠であることも公言した。まー単純に読み取るなら金目当てでやっぱり裏切るんだろうなあ。主人公もそれを疑って……いやー疑う場所、悪くない? え、だって今、縄梯子を昇ってる途中でしょ? そういうのは昇って落ち着いた後でいいんでない?


 縄梯子が揺れた。うん、確かにキャラクターの心情を表すメタファーだ。

 一応、ちゃんとやろうとしているのね。でもそのまんま言っちゃうのか。暗喩ってなんだろう。


 デガッドくんねえ。ギダルフが登り切れてないのは魔法使いだからじゃなくて、ご高齢だからじゃないですかね……。高齢者ディスから流れるようなマッチョ自慢。なんだろ、その層へのアピールでしょうか。先ずはギダルフを手伝ったれ。


 ほら~ギダルフさん死にそうだ。じじいのえづきだけで台詞になってるし。

 無事に登り切った、って文は繋がってねえよ。


 ん? 今税率180%つった? 大丈夫? 江戸時代の薩摩藩でも最大で八公二民じゃなかったっけ……あッ! 爆発した!! うわ普通にびっくりしちゃった。えーなんか仕掛けたりしたのかな。読み飛ばしたとこにヒントがあったのかな。もういいか。余計なことはもう考え――


 いやそれにしては兵士の描写はしっかりしてんな。

 キーストンコップって奴なのか。

 『ただ酷い目に合うためだけに存在する背景人物』。

 昔のスラップスティックコメディに源流がある、ただひたすら痛い目に合って笑いを取る『間抜けな警官』を指す言葉で、今に至るまであらゆるジャンルで利用される概念だ。更に派生して「主人公をひきたてるためにゴミのように倒されていく敵役」にも通じるものがあり、今で言うと、いわゆる無双モノ、に繋がっていると思われる。


 それならそれでそう割り切ればいいのに。

 中途半端に家族とか出しちゃうと感情移入しちゃうからさあ……。

 可哀想って思わせちゃ駄目だよお。

 下手くそ!!


 あーメルアリーのキャラ掘り下げてきた。

 なんというか、今じゃないでしょ! 妙に現実的だし。

 花火の思い出のくだりは、正直ちょっと好きかもしれない。

 普通に笑った。

 


 ふう。んで、ここでタイトルを出すんだ――

 

 「あ、アバンタイトル!?」まさか!

 ぼくは思わず叫んでしまった。アバンのつもりでやってたの!? 今まで!?


 いやまあ盛り上がる場面を最初にやって興味を引くってのは王道中の王道だけど、その中でキャラの回想やったらだめっすよ! そこはバッサリ切ろうよ!


 もう勘弁して!

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