A Study in Chaos
る。
乱雑な習作
「お嬢さん、ちょっとばかしその男について話を聞かせて貰えないでしょうかね?」
事故現場となったマンションで、女は確かに口にした。
存命しない住人の名を。
(――こりゃ
綺麗な仏の顔を眺めながら無精髭を軽く撫で、刑事、
捜査結果はやはりその勘を裏付けるように、容疑者として八人の女性が浮かび上がった。が、しかし証拠に欠け行き詰っていた。
(こういう場合、“誰でもない”オチがままある。真犯人に限って捜査をすり抜け――)
そして、と岡本刑事はほくそ笑んだ。
犯人は現場に舞い戻る。
「知らないわね」案の定しらばっくれる女に「じゃあこれは、」と事故現場の写真を突き付ける。ご法度だがホシを挙げるなら話は別だ。しかし女は一瞬眉を寄せただけで、冷めた態度を変えなかった。更に揺さぶりをかける。
「お嬢さん、合鍵をお持ちですよね?」
チラ、とコートポケットに視線が向かったのを見逃さなかった。
「いやね、合鍵を使って先に部屋で待っていた、ってことは分かってるんですよ。動機もね……何せ、他に八人もの女がその合鍵を持っていたんですから」
「――そう。彼が持っていた合鍵から割り出したのかしら?」
(引っ掛かった!)
「いやいや、捜査法は秘匿ですがね、彼は持っていませんでしたよ、一つも……気の毒ですが、本命はいなかったみたいですね」
「それなら、今度は八つの合鍵を持っている女性を探してみることね」
「へ?」
「交換したがるものよ。少なくとも一つもない方が不自然だわ。写真を見る限り計画的な犯行には見えない。だから例えば、閉まってあった他の鍵を見て逆上し――動転したまま、急いでその鍵を全部持ち去ったんじゃない? 自分に繋がらないように。
“彼”、
「な、」口をはくりと開けていると、女がもう一度その名を呼ぶ。
「
「誰だ?」背後から通り過ぎた男が訝しげにこちらを見る。
「さあ」女はポケットから鍵を取り出し扉に差し込んだ。兎のキーホルダーに並びもう一つ鍵がぶら下がっている。
「全く、オジサン好きだからって」
「馬鹿言わないで……有能な人に限るわ」
扉が閉まり、一人残された。
了
A Study in Chaos る。 @RU-K
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