第4話
……ここが、転送フロア……。
ついにか……。
映画館みたいなだだっ広い、天井の高いフロアの一番端に、転送装置はあった。
仕切りが全面ガラス張りで、転送していく人たちの姿が見える。
さっきから、装置の丸い台の上に乗った人が、次々と光と共に消えていく。
ソファがたくさん並べられていた。
「番号札を取って、お待ちください」
「はい」
「順番近くになりましたら最終確認をお願いいたします」
「はい」
女性スタッフからそう言われ、機械から札を取る。
207と書かれていた。
フロアの壁に掛かっている電光板を見ると、189のひとが呼ばれている。
僕の前に、20人が転送の順番を待っている、のか……。
ソファに座り順番を待った。
やっぱり、今のうちに、おしっこだけ行っておこう。
立ち上がりトイレに行く。
それから、再び、同じソファの場所に座り順番を待った。
ほかの異世界旅行者の恰好を見れば、行く先が予想がつくな……。
前に座っているおじさんは、動物の毛皮の腰巻一つに、手には石斧。
……なんで、この異世界に行きたいんだろう……行って何をするんだろう。
行く先は良いが、行く理由が僕にはわからない。
僕の後ろに大学生らしき、すごくテンションが高い男3人組が入ってきた。
鉄の鎧を着こんでいる。
いいなぁ、僕もあんなの着ればよかったなぁ。
そんな事を思っている間に、電光板が206を表示した。
そろそろだ、転送機の前まで移動しておこう。
すぐに僕の順番がきた。
「では3枚すべての紙の提出お願いします」
「はい」
青、黄色、赤の3枚が入った封筒をまとめて渡す。
係員が紙を取り出しながら、
「転送装置に上がってください」
「はい」
係員が装置パネルの方に歩いて行った。
僕も、大地を踏みしめるように転送装置の丸い台の上に登っていった。
「えー西山さん、ではこれから転送を開始いたします」
機械の装置パネルの所に居た、丸眼鏡をかけた初老の女性が、書類をトントンと角を揃えながら言う。
「はい」
「行先は、シャンナークの首都郊外です。道沿いに行けば街に着きます。時間は今と同じく午後3時25分。転送してから1日でこちらの世界に自動転送されます」
「はい」
「では、行きます。リラックスして立ってください」
「はい」
ごくりと生唾を飲み込む。
今まで、周りを気にして考えないようにしていた緊張が、最大限にまでになっていた。
「――あっ」
強烈な光が、上下から放たれ、思わず声を漏らしてしまった。
まぶしくて目を瞑る。
空気の匂いが変わった。
なんだ? 爽やかな緑の香りがする……。
確認しようと開いた眼に、青空が飛び込んできた。
……どこだここ?
ゆっくりとあたりを見渡す。
……な、なんだ、あれは……。
森が眼下に広がっていた。
その先に、月がふたつある。視界の左右にひとつずつ。大きいのと小さいの。赤いのと青いのが、ある……。
……こんな一瞬で異世界なのか……。
こういうのは、落ち着くのが、だだだだただ大事だ。
「すーー、はーー」
深呼吸一つする。
小高い丘の上に僕は居た。
爽やかな風が吹いていくる。切ろうと思っていた前髪が鬱陶しくなびいている。
道沿いに行けば街とか言ってたよな。
辺りの様子を窺う。
小高い丘の下は森。反対側は草原が広がっていた。
いちめん腰ほどの高さの草でおおわれ、ところどころに灌木が生えている。
草原の先にも森が広がっているのが見える。動物の類は見えなかった。
……いや……?
灌木の所に何か、いるぞ?
目を凝らして、少し距離のある灌木を見つめる。
なんだ!?
前方の草むらにも何かいる!?
遠くを見つめていた不意を突かれ、おもわず驚き退った。
草むらに居るやつを注視しる。
草が微かに揺れていた。
そら、また――。
微かな、微かな揺れ。
右方向へ、ゆっくりゆっくり動いている。草々の中で、何かがうごめいている。
と、水色の体が垣間見えた。足がないのか、ずりずりと引き摺っている……明らかに地球上の動物の類ではない。
……モンスターかな? 異世界だから……。
おっなんだ!? そいつがピタッと動かなくなった。
……こいつ、僕を見ている……。
目玉は確認できないが、まちがいなく、確信を持って言える。睨まれているのが皮膚感覚で分かった。それくらいの威圧がある。
「うっ……」
威圧で皮膚がピリピリする。
う、動けない……。
そのまま固まって、音を立てず、じっと様子を窺い続けた。じっと見つめ合っていると、
――ん?
草が風に揺れ、水色のそいつが明らかになった。
なーんだ。
僕は安堵の息を吐いた。臨戦態勢を取っていた全身から力を抜く。そして、身を乗り出してそいつを見つめた。
「やべー」
うっとり見つめてしまう。画面越しに見ていたモンスターだ……。感動で動けない。水色でゼリー状の、ぽよほよした饅頭みたいなの体。ロープレでおなじみの、スライムじゃないか。
――おっ?
見つめていると、スライムがぴょんぴょん跳ね始めた。
かわいいっ。
小さな体をポヨンポヨンさせて、跳んでる……キャプチャして飼えないかなぁ。スラって名前にし――
――ん?
新たな気配を感じて、辺りを見渡す。辺りの草むらが、一斉にカサカサと大きく動いた。
ちょっと後ずさりする。
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