白雪姫(2)

「だいたい、なんなのこのふざけた芸名は? 私は白雪姫みたいに美しいです~! ってアピールでもしているわけ? どこまでも生意気な小娘ね! Fuck!」


 ちなみに白雪プリンセスは本名です。

 白雪さんちのプリンセスちゃん、昨今流行りのキラキラネームというやつなのですが、もちろんキュートは知りませんでした。


「しかも、えっ? こいつ、SMAQスマックのシムタクにフォローされてるじゃん! 私だってフォローしてもらってないのに! は? なに調子こいてんの? 私はイケメンアイドルからも好かれてますってか? ウッザ! マジウッザ! 断れよ! マジのガチで許さねーし! しかもデビュー2曲目にあのヨワソビが楽曲を提供? はぁぁぁぁぁぁ? 私だって作ってもらったことないのに!」


 キュートは怒りに打ち震えながらマネージャーに電話をかけました。


「あー、もしもしジャーマネ? 私わたし、キュート。あのさ、最近デビューした白雪プリンセスって子いるでしょ? そう、そいつ。でさ? うちの事務所からテレビ局に圧力かけて、この子を出演させないようにしてくれない? は? 理由とかどうでもいいでしょ。アンタは私の言うことに『はい』って言うのが仕事だって常日頃から言ってんでしょうがこのタコ! そう、そうよ。うん、なるはやでね。それと週刊誌にもあることないこと書かせて、精神的に追い込んでちょうだい」


 な、なんということでしょう!

 キュートは今まで何人ものライバルたちを蹴落としてきた、お得意の大手事務所による圧力を使うつもりなのです!


 芸能界で物を言うのは、1にも2にも事務所の大きさです。

 大手事務所が圧力をかければ、どれだけ人気のアイドルであっても、どんなに人気の歌手であっても、紅白にもMステにも出ることはできません。


 それが芸能界のオキテなのです。


 キュートはこれを──アップルパイという自分の所属事務所の名前をとって──『毒りんご攻撃』と呼んでいました。


「白雪姫だけに毒りんごってね。キュートちゃん、上手いこと言ったじゃん! あはっ♪」


 さらには事務所に内緒でSNSでこっそり繋がっている太客たちに連絡を取ると、白雪プリンセスをネットで攻撃をするようにお願いします。


 太客たちはキュートにもっと気に入ってもらうために、何の罪もない白雪プリンセスを些細なことで叩き始めました。


 なんでもない発言を曲解して歪曲し、あることないこと捏造し、これでもかと叩きます。


 彼らは知り合いも動員して、白雪プリンセスのネガキャンをしたり、揚げ足を取って粘着し続けたりと、それはもう品性下劣な攻撃を白雪プリンセスに行いました。


 まさにネットリンチでした。


 こういった嫌がらせのせいで、それまで順調だった仕事がめっきり減ってしまい、ネットでは毎日のように理不尽な攻撃をされ、可哀想に白雪プリンセスは精神的に参ってしまってアイドルを休養することになってしまいました。


「まったく、ちょっと顔が良いからって弱小事務所の雑魚アイドルが調子に乗った罰よ。あははは、ざまぁ!」


 タワマンのベッドで『白雪プリンセス、休養』の芸能ニュースを見ながら、キュートはシャンパンを開けてはしゃぎます。


「ねぇAIさん。世界で一番可愛いアイドルは誰か、言ってちょうだい?」

「世界で一番可愛いアイドル、それは茂手川キュートです」


 その答えにキュートは満面の笑みを浮かべたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る