アステリア「伝説の剣士」~過去を後悔した剣士の物語~
風愛ヨウム
Opening
暗い雨の中、今宵の「獲物」を逃がしてしまった。あいつは狂おしいほど走って俺から逃げようとした。
そうだな。誰でも死が怖い。「死にたくない」の気持ちの必死さはよく知っている。にしても、遅かれ早かれ
死はどんな生き物でも絶対訪れる。
そして罪人の死を向かわせるのは、俺たち冒険者の仕事だ。
この路地の先は行き止まり。あいつの逃げ場はもうない。
剣を鞘から抜けた。地面に剣で摩擦の音を作りやつに恐怖を与えた。
遠くから俺の影を見た「獲物」は小さく悲鳴を上げ恐れの声を出す。
「や、や、やめろっ! わ、私はまだ死にたくないっ!」
死にたくない、死にたくない、死にたくないってもう聞きあきた!
その言葉で挑発されてしまった俺は、左の手でガンホルスターから銃を抜けあいつの足を打った。
「うああああああっ!」
傷んで強く叫んでから彼は地面に落ちた。
「や、や、やめろ! 私は一人娘がいるんだ! どうか、どうか、生かせてくれ!」
こういう風景、もう慣れた。死にたくない気持ち、まだ生きたい欲。
「ここに嘆いても無駄だ」
と、言って俺はあいつの肩を打った。
「ひゃあああああって! 頼むっ! 私を生かしてくれ! 娘が、アシュリーが、私を、待っているんだ!」
「アシュリー?」
そうだった。俺は忘れた。今晩の暗殺対象は、有名な芸能会社、ファーストエンターテインメントの取締役社長、ジェイコブ・リチャードソン。確かあの会社、色んなスキャンダルに巻き込まれたそうだ。タレント達の低い支給やセクハラとかよく聞いている。王族、特にあの芸能会社と所属している俳優、アレクサンダー・グランディソン・ホークと親しかった俺も、アシュリーとよく目に会った。
「ふっ、ふははははははは! はー、なんか笑えるぜ」
「な、何が面白い?!」
「あのさ、俺はな、アシュリーの口から耳にしたことがるんだ」
そう、こいつの一人娘は……
「『あのクソ親父、早く死ねばいい』と」父の死を望んでいた。
こいつは驚く顔をして一言も言えないままで、俺は鞘から剣を抜けこいつの首を、斬った。
行き止まりの路地の壁もこいつの血で染めてしまった。
「確か、私はそう願っていましたね」
と、後ろから女の子の声がした。
振り向くと、車椅子に座った女の子の姿が見えた。雨で濡れた金髪と紺青の目で俺を見ていた。
「ですが、口にしたことは、ありましたっけ?」
「あったんだよ。1年前、アレクスにお見舞いしに来たとき」
「あっ、そうですか」
そういえば、こんなお嬢様が雨の中にびしゃびしゃになったとは。家から、特に使用人たちから逃げ出したにのかな。でもあの車椅子で逃げ出したのは、待て。確かリモートでコントロールできるんだ。ゲームのコントローラーみたいに。
「っていうかなんでお前も雨ん中に遊んでいるんだい? 風邪ひくぞ」
と聞いて、アシュリーはただ下に目を付けた。顔を、隠すようにしている。
ふと、彼女は小さく、すすり泣きをした。
そうだ、そうなんだ。この子は、父親の死を見届けたかったんだ。例え彼女は父がどんなに憎んでも、俺が殺したのはこの子の父親だ。少しだけでもきっと、アシュリーにも父親と暖かい懐かしく思う思い出もあったんだろう。
俺は落ち着くように、優しくこの子を抱いた。
抱くと鳴き声がどんどん強くなり「ありがとう、ございます」と鳴き叫んだ。
30分以上、現場から離れて俺はアシュリーを近くのバス停に送った。
「あの、ありがとう、ございます。バス停まで送っていただいて。どんなお礼をすればいいか……」
「お礼なんてすんなよ」
と言って、俺はこの子の頭を撫でた。
「えへへ。なんか勿体ないんですね」
「何が?」
「アレクスが、あなたみたいな兄の存在を失ったとは」
と聞いて、俺はアシュリーの頭から手を離した。
「ホーク家の自業自得さ。俺も、王族と巻き込まれたくないほど、貴族の名前すら捨てたぜ」
そう、今の俺はただの野良犬の剣士に過ぎない。ホーク家かハイン家か、俺にはもう縁がない。
気付かないうちにバス停が来た。
「そういえば、アマクサ様からの伝言がありました。新しい依頼があると。詳細はチャットで送りました。ついでに、さっきの暗殺依頼の写真も転送しました。依頼の支払いは遅ければ明日と」
「それはありがたいな。では、ご無事で」
と、アシュリーがバスに入った。
俺はバイクを止めた駐車場にアシュリーが送った例の依頼を見た。
「人探し?」
アマクサから珍しい依頼だ。今回の依頼は、ルシア・ヴァレンチオ・ローゼンという少女の捜索。今年18歳で、目色は緑。髪の毛長くてピンク色。
なんか久々にローゼン家に会うことになるとはな。彼らは昔から暗殺者の一族ってよく呼ばれているが、高校時代に会った同級生のローゼン家とイメージが違った。まっ、それはただの社会差別だろう。悪いイメージに付けられて、実際はそうじゃないと思う。
では、行栄不明者の捜索に行くとするか。どんな出会いができるか、楽しみにしてるぜ。
アステリア「伝説の剣士」~過去を後悔した剣士の物語~ 風愛ヨウム @Youmu0125
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。アステリア「伝説の剣士」~過去を後悔した剣士の物語~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます