第34話 ……私が男の娘だったらもっと仲良くなれたのかな
「あのね月ちゃん、聞いてほしいことがあるの。私、月ちゃんと友達になれて毎日とても楽しいよ。もちろん、天音ちゃんも帆波ちゃんもだけど」
「……だからなぜ我は含まれないんだ」
「……しっ、メアリー。水を差さな~い。メアリーはまだ静香とあって数日だからカウントされるわけないよ~」
この高校に入って良かったことはなにかと聞かれたら、間違いなく月と帆波と天音と友達になれたことと答えるだろう。
もし静香がこの高校に入ったら、この三人とは友達になるどころか一生出会わなかった可能性だってあるのだ。
そう思うと、逆に恐ろしい。
メアリーと天音がなにか言い合っているが、そこに意識を割けるほど静香は精神的な余裕はなかった。
「そう思ってるのは私だけなのかな」
少し言い方が卑怯かもしれないが静香は月の本心が知りたかった。
「そ、そんなことない。私も、静香ちゃんたちと友達になれて嬉しかった。……でも」
その言葉に嘘偽りはないのだろう。
でも最後に言った逆説の言葉。
その言葉がとても引っ掛かる。
「月ちゃんの気持ちを教えてほしい。月ちゃんが今、どんなことを思っているのか」
静香は月の心に響かせるように叫ぶ。
月が今、静香にどんなことを思っているのか、それが分からない限り、このわだかまりは解けないだろう。
「わ、私は……私は」
月は体を震わせながら、必死に言葉を紡ごうとする。
月も怖いのだろう。
自分の本心を伝えることによって、この関係が壊れてしまうのではないかと。
「私は……三人のことが好き。私も三人と友達になれてとても幸せだった。中学の頃は友達なんてできなくて、いつも一人で。だから私は高校も一人で過ごして単位を取って高校卒業の資格さえ取れれば良いと思ってた。でも入学式の時、校舎で迷子になっていた私のもとに静香ちゃんが来てくれた。静香ちゃんのおかげで無事体育館に着くことができた。それがとても嬉しかった」
か細くも月の声は心に響く。
入学式の時のことは静香も覚えている。
不安そうに周りをキョロキョロしながら歩く女子生徒。
迷子だと思った静香は、その女子生徒に話しかけると案の定迷子だった。
だから、一緒に体育館に連れて行った。
静香も覚えていたが、静香からすればそれはただのきっかけに過ぎなかったが、月にとっては忘れないぐらい嬉しい出来事だったのだろう。
「その後静香ちゃんと同じクラスになれたことを知った時はとても嬉しかった。って私って馬鹿だよね。一回優しくされたぐらいで舞い上がるなんて」
「そんなことない。私も月ちゃんと同じクラスで嬉しかった」
自虐する月に静香は否定する。
初めての学校。初めての同級生。
月でなくても、新入生というのは新しい環境に馴染むことができるか不安になる。
同じクラスに見知った人がいる安心感は分かる人には分かるだろう。
「……そうだったんだね」
月は嬉しそうにハニカミながら俯く。
「その後、帆波ちゃんと天音ちゃんとも友達になって毎日が楽しかった。でも時々辛かった。私は女の子で他の三人が男の娘だということが。もちろん、三人がとても優しい男の娘だっていうことは分かっているけど、過度に気を遣われたり、変な風に女の子扱いされると私だけハブられているような感じがして、疎外感があった」
「あら~帆波~。帆波のせいで月、疎外感を抱いていたってよ」
「そ、それは良かれと思って」
月は過度に気を遣われたり、女の子扱いされることに疎外感を抱いていたらしい。
それは気づかなかった。
ここは好機と言わんばかりに天音は帆波をからかう。
帆波はそんな意図はなかったらしく、歯切れが悪い。
帆波は月をハブろうとして気を遣っていたわけではない。むしろ、月が大事な友達、いや女友達だからこそ帆波は気を遣いすぎるほど遣っていたのだろう。
それが裏目に出るとは知らずに。
「……私が男の娘だったらもっと仲良くなれたのかな」
月は自分が男の娘、つまり静香たちと同性じゃないから壁を感じているようだった。
静香は思いっきり否定したかったが、月の言うことも一理あるのですぐに否定することはできなかった。
男の娘である以上、女の子には多かれ少なかれ男の娘よりも気を遣ってしまう。
「確かに月ちゃんが女の子だから気を遣っていた部分はあるよ。だって私と月ちゃんは異性だもん」
「……おい」
静香は優しい声で月に事実を突きつける。
この事実は、今後どうやっても変わることのできない事実だ。
帆波が焦った声を出し。珍しく天音が帆波を制止させている。
「月ちゃんも同性よりも異性の方が気を遣うでしょ」
「……それはそうだけど」
ほとんどの人間が同性よりも異性の方が気を遣うだろう。
月もそこは同じらしく、コクリと頷く。
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