初めてのふわふわ温泉旅行(13)
お風呂上がり。服を着て外に出ると、ほんのり空気が涼しくて。お風呂の中とのギャップにこれまた気持ちがいい。
莉乃がいちご牛乳が飲みたいと言っていたので、自動販売機を探してみたけど、そういうものは見当たらない。銭湯じゃないからなあ、なんて言いながら併設されていたカフェに行くと、レジ前で売っていたので、大喜びで私たちは飲み物を購入した。
ちなみに莉乃がいちご牛乳で、私はフルーツ牛乳。いまやレアな存在になってしまっているらしいフルーツ牛乳を見つけて、私もついついテンションが上がってしまう。
すっかりのぼせてしまった私たちは、ふーっと息を吐いて。それがまた同じタイミングだったものだから笑ってしまう。恋人というのは、こうして無意識のうちに動作が似てきてしまうものなのだろうか。確か誰かがそんなことを言っていたような気がする。
一息ついたあと、温泉施設を出る頃には、あたりはもうすっかり暗くなってきていた。そろそろホテルにチェックインしないと、夕食の時間になってしまう。『おなか空いた〜』と言った途端、お腹の音が鳴ったのを聞かれてしまって、なんだか恥ずかしくなった。いや、今更、さっきまでもっと恥ずかしいことをしていたくせに、それくらいなんだって話だけど。
ホテルは街の中心部から少し歩いたくらいの距離にある。
「明美さん、見て!」
向かう途中、莉乃にそう言われて見てみると、中心部の湯畑のあたりがライトアップされて、青紫の光で照らされていた。
「わあ、綺麗」
「すごいね」
せっかくだからと二人で記念写真を撮ってから、ホテルに向かった。そういえば二人で記念写真を撮ったことなんてほとんどないから、なんだか嬉しくなる。莉乃はさすがというか、自撮りが上手だった。他の誰かとも自撮りをしていたんだろうな、なんてことを考えるとちょっと面白くない気持ちになりそうだったので、考えないことにする。
ホテルの受付でチェックインを済ませて、部屋に向かう。
写真は見ていたけれど、やっぱり最初に部屋に入る瞬間というのは、期待に胸が膨らむ。
扉を開けると、想像よりも広くて、ベッドも大きかった。セミダブルサイズのベッドが二つある、ツインルームだ。
「わー、広い!」
「ライトアップも見えるね」
窓側からは、さっきの湯畑のほうの景色が見えて、眺めも良い。申し分なかった。
ちょうど予約していた夕食の時間になったので、荷物を置いて、下の階のレストランに向かう。夕食は和食のコース料理で、これまた温泉旅行という感じがする。
莉乃が食べたいと言っていた和牛のすき焼きは、お肉がとろけそうなくらい柔らかくて、一口食べてまた頭の中まで溶けてしまいそうになる。今日は本当にどれだけ、頭の中が溶けてしまうのだろう。ぜったいIQが下がっていると思う。
さっきのぼせるくらいお風呂に入ったばかりだったし、夕食のあとは少し休むことにした。お酒も少し飲んだから、どのみちすぐお風呂に入ったらいけない身体であることは間違いない。
部屋に着くなり、それぞれベッドの上にごろんっと寝転がる。
「今日は楽しかったね」
「でもちょっと疲れた。お風呂気持ちよかったけど」
「長旅だったもんね」
そんな会話をして、明日はどこをまわろうかとかそんなことを考えているうちに、なんだかトロンとした感じになってくる。
「そろそろ寝ちゃう? お風呂は明日の朝でいいかなって思うんだけど」
「わたしもそう思ってた。朝起きたらご飯の前に一緒に行こうー」
そうやって明日のプランを決めて、いざ布団の中に潜り込もうとしたタイミングで、莉乃が言う。
「明美さん、ちょっと、そっちに行ってもいい?」
「えっ……いいけど」
返事を聞くや否や、莉乃は私のベッドに乗って来て、仰向けに寝転がっている私の横に寝転んで言う。
「さっきの……続きしましょ?」
そんなことを言って、私の頬に触れて、首筋をすーっと撫でる。
どうしよう……続きってなんだろう。もしかして……。
なにやらよからぬことを考えてしまう。いや、恋人なんだから別にいいのか? いや、でもまだ、心の準備がっ……。
私が大混乱していると莉乃は。
「ほら、明美さん、うつ伏せになって。それじゃマッサージできないでしょ」
あああああ。
顔が熱くなる。変なことを考えてしまっていた自分が恥ずかしい。
思わず枕をボンボン叩くけど、そんな私の動きになんて目もくれず、莉乃はうつ伏せになった私の腰の上にまたがって、背中を指でぎゅっと押してくれる。
「ああ〜」
思わず声が出る。莉乃って、さっきから思っていたけれど、マッサージが上手い。
こういうの、どこで覚えてくるんだろう。
本当に気持ちがよくて頭の中がふわふわしてきてしまう。
「……大好きですよ〜」
マッサージをしながら、私の耳元でそんなことを言う莉乃。そのままぎゅーっと抱きつかれたような気もするんだけど、私の頭の中はもうすでにどうにかなってしまっていた。
「……明美さん?」
莉乃が私の名前を呼ぶのが、うっすらと聞こえる。
そんなことを思いながら、私の今日は、あっという間に終了してしまったのだった。
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