12話 タマミちゃんと明子おばあちゃん
少し日が傾き始めたカスティリア中央駅のホーム。折り返し運行の出発を待っていると、明子おばあちゃんが乗車してきた。
「17号列車ちゃん、こんにちは。 よっこいしょ、と。」
「こんにちは、明子おばあちゃん。あと10分位で発車しますので、もう少しだけ待ってて下さいね。」
「大丈夫よ。今日の売上をまとめておきたいから、ちょうど良いわ。」
明子おばあちゃんは、そう言うとポケットからペンとメモ帳を取り出して、何かを書き込みはじめた。
「8番線の列車は、クラクトン・シー行き、普通列車です。間もなく発車します。」
自動アナウンスが流れて駅員が駅員が列車の中央付近に立った。
パタパタパタパタ・・
うん?この音は・・。
やっぱり、タマミちゃんが駆けこんで来た。
「よーし、ギリギリセーフ。17号列車さん、こんにちはー!」
それを見届けた駅員が笛を吹いて右手を挙げた。
「普通列車、クラクトン・シー行き、発車します。」
ドアを閉めて、出発信号の進行指示を待つ。
「17号列車、60キロの速度制限で進行許可!」
「出発、進行、制限60!」
列車を発車させて、タマミちゃんに声をかけた。
「タマミちゃん、今日も全力疾走だったね。カスティリア中央駅でも、駆け込み乗車のお姫様で有名になっちゃうよ。 あははは。」
「誰が駆け込み乗車のお姫様ですか、失礼な。 これは寝坊じゃないの。放課後に図書館で調べものしてたら遅くなったのよ。」
「理由はどうあれ、走って列車に飛び乗ることを駆け込み乗車って言うんだけどなぁ。 まぁ、元気があってよろしい。 あはは。 あ、そうだ、明子おばあちゃん!」
「はいはい?」
「彼女がこの前話した、このタペストリーを作ってくれたタマミちゃん。 タマミちゃん、こちら明子おばあちゃん。タマミちゃんのタペストリーが丁寧だって褒めて頂いたんだよ。」
「あらあら、貴方がタマミちゃん?初めまして。 確かに元気そうなお嬢さんね。わたしはね、みんなから明子おばあちゃんって呼ばれてるの。クラクトン・シーから毎日野菜を売りに来てるのよ。」
「こんにちは。タマミです。タマミもクラクトン・シーから通学してます。おばあちゃんがいつも大きな荷物を持ってるを見ていたので、何だろうと思ってました。野菜だったんですね。」
「そうだ、タマミちゃん、このタペストリー、凄く素敵じゃない。特にここ、このサテンステッチは時間かかったでしょ。」
「えー、わかってもらますか、そうなんですよ。このサテンステッチ、凄い時間かかったんです。何回も指に針ささるし。」
「わたしね、野菜を作る他にね、実は刺繍が趣味なの。だから、この手間、わかるわ、たしかに最初は針さしちゃうのよね ふふふ。」
「えー、刺繍得意なんですか? サテンステッチのコツってなんですか?」
タマミちゃんと明子おばあちゃんは2人で並んで座って、クラクトン・シーに着くまで、ずっと刺繍の話で盛り上がっていた。
翌週月曜の朝、クラクトン・シー駅。
「17号列車さん、おはよー。今日は少し暑いよねー。あ、明子おばあちゃん、おはよー。」
タマミちゃんが乗り込んできた。
「タマミちゃん、おはよう。今日も元気だねぇ。」
明子おばあちゃんは先に列車に乗って、先頭の席に座っていた。
タマミちゃんは、明子おばあちゃんの隣に座るとカバンから何かプリントされた紙を取り出して、それを見ながら2人で楽しそうに話始めた。
「あら?なになに、何の話なの?」
「あ、これ? これね、校外学習旅行の案内なの。来月シルバーフォレストへ行くのよ。」
へぇ、遠足とか、修学旅行みたいなのものがあるんだな。
「シルバーフォレストって、どんなところなの?」
「王国の自然保護区でね、手付かずの山、湖、森がある大きなエリアなんだって。そこで3日間、湖の湖畔でキャンプするのよ。」
タマミちゃんが楽しそうに話してくれる。
「キャンプかぁ。キャンプの初日って、カレーライス作っちゃうんだよねー。」
「うわぁ、17号列車さんって、ステレオタイプなんだー。」
「え、キャンプでカレーって古いの? 今どきのキャンプって何作るの? あ、バーベキューとかするの?」
「・・・カレー。」
「なぁんだそりゃ!」
「だって、一発であてちゃうんだもん。。」
3人でケラケラ笑った。
その後も2人はカスティリア中央に着くまで、ずっとプリントを見ながら盛り上がっていたようで、楽しそうな笑い声が聞こえていた。
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