第33話 命の雫


 残りのスキルを見て呟く。


「あとはSSRスーパースペシャルレアURアルティメットレア、そしてLRレジェンドレアか」


 残された三つを前に、

 夜羅ゆらは静かに理解を深めていく。


 これらは強い、では済まされない。

 明確に『位階』が違う。


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 LRレジェンドレア

 『天命記述者』


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 名称だけで役割が完結している。


 天命。

 それは未来ではない。

 予測でも可能性でもない。


 世界が既に「そうなるもの」として

 確定させた流れそのものだ。


 それを『記述』する。


 つまりこのスキルは、

 運命を読む力ではなく、

 運命を書く権限。


 しかも対象は他者ではない。

 まず間違いなく、

 『自身』だ。


 これまでの能力抽選、

 異常な成長速度、

 端数調整との親和性。


 スキルに選ばれるのではない。

 スキルを選び、

 作り、

 履歴として刻む。


 世界のシステムを

 一段下から見下ろす立場。


 『天命記述者』とは、

 プレイヤーではない。


 ――設計者側だ。


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 URアルティメットレア

 『魔法創作』


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 これは能力ではない。

 権限だ。


 既存の魔法を強化するのではなく、

 既存の魔法体系に縛られない。


 術式、属性、詠唱、媒体。


 それらを前提としない魔法。


 既に無属性ヌル

 魔弾バレット

 反鏡ミラー

 その片鱗は示されている。


 だがそれらは

 あくまで独学の延長。


 『魔法創作』は違う。


 世界に存在しない魔法を、

 世界に通用する形で

 定義する。


 失敗は存在しない。

 あるのは

 「成立しなかった設計」だけ。


 研究者にして、

 開発者。


 そして破壊者。


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 SSRスーパースペシャルレア

 『重力操作』


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 力としては単純。

 だが危険度は極めて高い。


 重力とは、

 世界を縛る最も原始的な拘束。


 上も下も、

 落下も軌道も、

 圧縮も崩壊も。


 全ては重力の結果だ。


 それを操作するということは、

 物体ではなく

 『場』を歪める行為。


 空間圧縮との相性は言うまでもない。

 魔弾の加速、

 跳弾の制御、

 敵集団の拘束。


 さらに恐ろしいのは応用。


 重力を消す。

 重力を反転させる。

 重力を一点に集中させる。


 それだけで

 ほとんどの存在は戦闘不能になる。


 戦うためのスキルではない。

 戦わせないための力だ。


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 SSRスーパースペシャルレア

 『命の雫』


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 一見すると穏やかだ。

 だがこれも異質。


 命を回復する。

 延命する。

 蘇生する。


 そういった効果では終わらない。


 『命』という概念に

 直接触れる消耗品。


 魔力でも、

 氣でも、

 時でもない。


 存在そのものを

 一滴として扱う。


 使用条件が不明なのが

 最大の警告だ。


 軽々しく使えば、

 何かを取り戻す代わりに

 何かを失う可能性が高い。


 だからこそ価値がある。


 夜羅ゆらは結論に至る。


 残されたこれらは

 戦闘を楽にするための報酬ではない。


 次の段階へ進むための

 『鍵』だ。


「さて、『命の雫』からにするか」


 紅色のスキルオーブ。

 それを握り潰す。


 紅色の光が、

 砕けたオーブの断面から滲み出す。


 それは魔力でも、

 氣でもない。


 視界に映る色そのものが、

 『命』という概念を帯びていた。


 握り潰した瞬間、

 夜羅の掌に熱はない。

 だが確かな『重み』が残った。


――擬似スキル:命の雫(SRスーパーレア)を獲得しました。


 次いでスキル核を摂取する。


 スキル核を摂取した途端、

 体内で何かが軋む。


 器官でも、

 魔力回路でもない。


 もっと深い場所。

 存在の基底。


 そこへ雫が落ちる。


――条件:スキル核の摂取……達成。

――擬似スキル:命の雫(SRスーパーレア)をスキル:命の雫(SSRスーパースペシャルレア)へと変更します。

――…………成功しました。

――スキル:命の雫(SSRスーパースペシャルレア)を獲得しました。


 ――ドクンッ。


 胸の奥、

 心臓よりも深い位置で、

 何かが一度だけ強く脈打った。


「ゔっ……っはぁ」


 息を吸った瞬間、

 肺が空気を取り込むより先に、

 『存在』そのものが拡張される感覚。


 血が巡る音が変わる。

 鼓動は早まらない。

 むしろ整えられ、

 一拍一拍が異様なまでに明確になる。


 視界が一瞬、

 紅に染まった。


 炎の赤ではない。

 血の赤でもない。


 それは『生命』という概念が、

 色を持ったならこうなる、

 そう錯覚させる赤だった。


 全身の細胞が、

 同時に問いかけてくる。


 答えを返す必要はない。

 既に選択は済んでいる。


 『命の雫』は、

 夜羅の意思を確認などしない。


 ただ淡々と、

 「死に至る可能性」を

 一つ削除しただけだ。


 吐き出した息が震える。


 痛みはない。

 苦しさもない。


 それでも、

 身体が拒絶反応のように

 深呼吸を要求してくる。


 生命活動が、

 過剰に正常化された反動。


 脳が理解するより早く、

 肉体が「まだ大丈夫だ」と

 確認作業を繰り返している。


 指先を動かす。

 関節が軋む感覚はない。


 魔力を巡らせる。

 濁りは一切ない。


 氣を流す。

 抵抗は存在しない。


 全てが、

 「最初から壊れていなかった」

 状態へと再定義されている。


「……ステータス」


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♦♦ステータス♦♦


 HP:15,503/155,000

 MP:69,980/69,980

 筋力:15,700

 物防:7,500

 魔力:19,500

 魔防:8,000

 俊敏:3,500

 器用:8,940

 精神:50,480

 知力:614,540

 神秘:スキルレベルが足りません。

 感覚:5,000

 幸運:7,700


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「効果はHPライフポイントの10倍か? 他にも感覚と知力が増えてるのはスキルの効果か」


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 命の雫

 概要HPライフポイントを10倍にする。


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 知力強化Lv.1

 概要:知力値が1%増加する。


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 感覚強化Lv.1

 概要:感覚値が1%増加する。


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「なるほど。HPライフポイントが急激に増えたことによる症状だったか」


 独り言は、

 確認作業のように静かだった。


 胸の内側で、

 先ほどまで暴れていた違和感が、

 理屈に置き換えられ、

 急速に沈静化していく。


 『命の雫』が行ったのは、

 治癒ではない。


 修復でもない。


 現在の生命状態を基準に、

 「死に至らない範囲」を

 大幅に引き上げただけだ。


 つまり――

 耐久値そのものの底上げ。


 肉体が損傷を受けても、

 それを「致命」と認識しないよう、

 生命の閾値を書き換えた。


 だからこそ、

 獲得直後に起きたあの反応。


 心肺機能が異常を訴え、

 神経が過剰に自己診断を行い、

 脳が「まだ生きているか」を

 何度も確認していた。


 HPの最大値が跳ね上がったことで、

 現状の生命活動が

 相対的に「低すぎる」と

 判断されたのだ。


「一時的な過呼吸と、自律神経の誤作動……」


 指先に視線を落とす。

 震えはもうない。


 脈拍も、

 魔力循環も、

 氣の流れも、

 完全に安定している。


 むしろ――

 異常なほどに『余裕』がある。


 致命傷の基準が遠のいた分、

 多少の損傷や疲労は

 誤差にすらならない。


 だが同時に、

 理解してしまった。


 このスキルは、

 「死なない」ことを保証するが、

 「無敵」にはしない。


 HPが増えただけで、

 防御が上がったわけでも、

 再生速度が上がったわけでもない。


 削られれば、

 普通に削られる。


 ただし――

 削り切るために必要な量が、

 常識外れになっただけだ。


「……使いどころは慎重に、か」


 小さく息を吐く。


 『命の雫』は、

 戦闘中に真価を発揮する。


 だがそれは、

 瀕死を前提とした保険ではない。


 「致死域を踏み越えた後でも、戦闘を継続できる」


 その一点において、

 極めて悪質なスキルだ。


 夜羅は静かに背筋を伸ばした。


 身体は軽い。

 だが存在は、

 確実に重くなっている。


「次は……」


 視線が、

 残る一つずつの『SSR』と『UR』、『LR』へと向かう。


 世界を歪める力と、

 世界を書き換える権能。


 どちらを先に手に取るかで、

 この先の在り方が決まる。


 鼓動は一定。

 思考は冴え切っている。


 命は、

 もう一段階、

 深く根を下ろしていた。

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