第188話(158話A):親と子の果たし合い
闘士たちの聖地、ルゼリアの大闘技場。
雨は……未だ降り続けていた
その雨音を打ち消すかのように、拳と拳のぶつかり合う音が鳴り響く。
あれから、どれほどの時間が経ったのだろうか……。
獣同士の争いは、悠久の刻にも、刹那の刻にも感じられた。
常人の目では捉えられぬほどの速度で展開される、激しい攻防。
互いに一歩も譲らぬ、達人同士のやり取りの中、一つの区切りが来た。
「……意外と衰えてねぇじゃあねぇか」
「……ガキに心配されるほどヤワじゃねぇヨ」
合間に交わされる、煽り文句の応酬。
二人が攻撃の手を止めたのは、相打つ形で互いが強烈な一撃を受けたためだった。
ラーズの胸元には血が滲み、レイジの脇腹にも拳の跡が穿たれている。
そんな状態でも表情ひとつ変えず、双方ともに強気の威圧である。
「ったく……面倒くせぇナ……出来りゃこの辺で倒れといて貰いたかったんだがヨォ」
その言葉とは裏腹に、レイジは満足げな表情でラーズの方を見やる。
まるで、我が子の成長を喜ぶかのように……。
「面倒くせぇのはお互い様よぉ……出し惜しみすんなって言ったはずだぜ?」
そんな父の想いを知ってか知らずか、ラーズもまた不敵な笑みを浮かべた。
間違いなく、二人は心から、この闘争を楽しんでいる。
「ここで死んでも恨むなヨ? 手加減無しダ!」
「今まで手加減してたってぇのかい? 強がんなよ!」
我が子に向けて、手加減なしで拳を振るう。
その親に向けて、躊躇うことなく拳で応える。
およそ一般的な親子から見れば、なんとも歪な関係性だろう。
だが、この二人にとっては、最も理想的な親子の形なのかもしれない。
「ははっ……嬉しいネェ……」
ここで、ラーズを強敵と認めたレイジが、切り札を披露する。
「アゲていくゼ! ──
音速の世界。
常人には達することのできない、高速を超えた超速の領域である。
音が届くよりも速く放たれる、その物理的な衝撃は単に速いだけではない。
音の壁を超えるだけの力とそれに耐える肉体があって初めて成し得る偉業……。
簡単に言えば、速い上に威力も強いということだ。
そんな理不尽な攻撃が、ラーズに襲いかかる。
それも一撃だけではない。
音速を活かした連続攻撃は、絶え間なく全身を打つ。
防御などあってないようなものだ。
「ラーズ!」
「ラーズ殿!」
ずっと黙って見守っていたライオネルと宰相が思わず声を上げる。
そこには、闘技場の床を抉るように吹き飛ばされ、倒れ伏すラーズの姿があった。
ここまでダメージを受けた姿は、今まで見せたことがない。
いや何より、攻撃を受けて倒れているということ自体が、今までにない出来事だ。
「……いや、死んでねぇナ……やるじゃあねぇカ」
「……
背後の相手に目を合わせぬまま、構えも解かずにレイジが呟く。
と、すぐさまラーズはそれに応えた。
「誰に似たんだカ……減らず口叩くじゃあねぇカ」
「へへ……そりゃ……間違いなく、アンタ……だろうよ」
相当ダメージがあるのか、言葉にいつものキレはない。
だが、あの猛攻を受けてなお、ラーズは再び立ちあがろうとしていた。
「ヘェ……そのダメージで立ち上がってくるたぁナ……」
「勇気が俺に力をくれた……なぁーんてくせぇセリフでも期待したかい?」
「どうやっタ? 見えてねぇ攻撃の軸をズラすなんざぁ……そうそうできることじゃあネェ」
「アンタが一番わかってるはずだぜ? 鍛錬……己を信じ、積み重ねてきたものだけが、真の力になる……ってなぁ」
ラーズの言葉に嘘はない。
確かに、先ほどの攻撃は音速の領域にあった。
だが、超速の攻撃を放つ相手は、なにもレイジだけではない。
「うちの姫さんは……力も一級品だがよぉ、なにより
そう、ここまで鍛錬を積み重ねてきたラーズの相方には、人ならざる者がいたのだ。
人智を超えた偉大なる力の持ち主、竜の血を継ぐ
「マジカ……その姫さんてぇなぁ、そこまで
その答えを聞かされたレイジは、素直に驚きを露わにする。
この切り札に、まさか初見で対応されるとは、思ってもいなかったのだろう。
そうこうしている内に持ち直したラーズは、軽く跳躍した後、再び構え直した。
「さぁて、だいぶ回復させてもらった……次ゃあ、俺もそっちに行かせてもらうぜ?」
その言葉が何を意味するものなのか……。
目の前のレイジはもちろん、同席するライオネルにも、宰相にも理解ができなかった。
一同は、この男ラーズが如何に武の才に秀でた者なのかを……思い知ることになる。
「まずは……こんな感じか?」
次に、天狼が口にした、その技の名は……。
「──
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