第86話 冬の章(14)

 そんな私の横を、さも当たり前な顔でフリューゲルは並び歩く。


「アーラは、少し会わなかった間に、随分とズボラになったんだね」


 すまし顔でそんなことを言ってくるフリューゲルから、プイと顔を逸らす。


「今日だけよ。いつもはきちんと着替えてから帰っているわ。どうせ、庭園ガーデンに戻っている間も、私のこと見ていたんでしょ。それなのにそんなことを言うなんて、少し会わない間に、フリューゲルは、随分と意地悪になったものね」


 しばらくの沈黙の後、どちらともなくプッと吹き出すと、私たちはケラケラと笑い合った。


 どんなに憎まれ口を叩こうとも、フリューゲルが隣にいると安心できる。心にぽっかりと開いていた穴が、ぴったりと塞がった気がする。やっぱり、彼は私の双子の片割れなのだ。何故だか確信めいた思いが胸に込み上げてきた。


「フリューゲル、やっぱり……」


 胸に浮かんだ思いを口にしたその時、私を呼び止める声が、私の言葉を遮った。


「おーい。白野」


 校門横で、青島くんが大きく手を振っている。周りには、部活の仲間らしき姿が数人あった。青島くんは、ワイワイと囃し立てる彼らを煩わしそうに適当にあしらい、先に帰るように促す仕草を見せていた。仲間がバラバラと帰っていき、私が校門に差し掛かった時には、青島くん一人だった。


「白野、珍しいな。今帰りか?」

「うん。ちょっと今日は遅くなっちゃって」

「着替える時間もないなんて、ちょっと部活し過ぎじゃないか? 俺からじいちゃんに抗議しようか?」

「え?」


 私の隣に並び、心配顔を見せる青島くんの視線に思わず顔が赤くなる。面倒くさがらずに、きちんと制服に着替えておけば良かったと後悔したが今更だ。それでも少しは綺麗にしておこうと、ジャージの裾をパッパッと払いながら、青島くんの勘違いを正す。


「あ〜、違うの。大樹ひろしげさんは全然悪くないから。今日は、ちょっと作業始めるのが遅くて。着替えて帰るのが面倒でついこのまま……」

「そっか。まぁ、白野が大変じゃないなら良かった」


 青島くんはそう言って足を帰路に向ける。私も、彼の隣を歩く。こうして青島くんと並んで帰るのはあの日以来。


 こっそりと青島くんの顔を見る。何か良いことがあったのか、口元が少し緩んでいるような気がした。なんだかウキウキとしたその様子が気になって、ついチラチラと見ていたら、不意に青島くんがこちらを向いた。相変わらず、青のような緑のような不思議な色の瞳と視線がぶつかった。

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