第83話 冬の章(11)

「なんで? 青島くんが、何か言っていたの?」

「ううん。ヒロくんは何も。でも、つばさちゃんが元気なくなってから、ヒロくんが、つばさちゃんの事を心配そうに見つめることが多くなったから、もしかして、ヒロくんは何か知っているのかなぁって思っただけ」

「青島くんが? 私を? 全然気がつかなかった」


 驚きとともにポツリとこぼれた私の言葉に、緑は苦笑いを見せる。


「あはは。やっぱり気がついていなかったんだ、ヒロくんのこと」

「うん。全然。私、自分のことばかりで……。そっか、私、緑ちゃんにも青島くんにも心配をかけていたんだね。本当にごめんね」


 再度深々と頭を下げると、緑は、ポンと私の肩を叩いた。


「やめてよ。心配するのなんて友達として当然でしょ。ねぇ、それよりも、本当のところ、どうなの? ヒロくんだけは、つばさちゃんの悩みを何か知ってたりする?」


 興味津々というふうに少し身を乗り出して聞いてくる緑に、今度は私が苦笑した。


「悩みっていうか……。うん。まぁ、話を聞いてもらったことはあるよ」


 私の答えに、緑はニシシと含み笑いを漏らす。


「やっぱりねぇ。二人は、いつの間にか悩みを打ち明けるような仲になっていたのねぇ」


 緑の意味深な言い方に、私の心臓がドクンと大きく撥ねる。一度暴れ出すと、それは、ドキドキドキドキと、緑にまで聞こえそうなほどに激しく音を立てだした。


「ちょ、ちょっと。緑ちゃん。仲って何よ。私たちは別にそんなんじゃ……。あの時だって、偶然会って、それで、あの、青島くんが話を聞いてくれただけで……」

「わぉ! つばさちゃん、顔が真っ赤だよ。これは、もしかして、ヒロくん、脈ありだったりする?」


 緑の声に、私の鼓動はさらに早くなる。


「みゃ、脈あり?」


 私の素っとん狂な声に、緑はアハハと声をあげて笑う。一頻り笑った後、目元に滲んだ涙を指先でスッと拭いながら、少しだけ真面目な顔を作った。


「私は、つばさちゃんのそういうピュアなところ大好きだけど、今日は、一つお節介なこと言っちゃうね」

「お節介?」

「そろそろ、ヒロくんの視線に気づいてあげなよ」

「青島くん……の?」

「そう。そうしたら、きっとつばさちゃんの毎日は、今よりもキラキラして楽しくなるからさ」


 緑の言葉は、いつも少しだけ分からない。相変わらず私が首を傾げていると、そんな私に緑はいつもの笑顔を見せた。


「ま、今は分からなくてもいいよ。だけど、心の片隅にでも、今の話を留めて置いてよ」

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