第63話 秋の章(19)

「う〜ん。私たちが下界で本当の双子だった。コレは何となくだけど確信があるのよね。それで、あの写真も本当だとすると……え? お母さんのあの話は? アレもホント? 私だけが生きて、弟は産まれてくることができなくて……弟は、フリューゲルで……」


 私は、頭が混乱してその先の言葉を続けることが出来なくなった。ただただ無言のまま、フリューゲルを見つめる。


 その間にも、下界での生活が自分の中で真実であると不思議と強く思えてくる。しかし、そんなはずはない。私は、私たちは、天界の最下層庭園ガーデンに住まうNoelノエルなのだ。今は一時、この下界へ学ぶために来ているだけ。そんな思いも私の中で渦巻く。


 下界の人、白野つばさとしての私は仮初の姿。庭園ガーデンの住人であるNoelアーラとしての私が本当の私。そう自分に言い聞かせてみても、なんだか、しっくりとこない。深い霧がかかっているみたいに、頭の中がはっきりとしない。次第に、何を考え、何を見極めなければいけないのかもわからなくなってきた。


 ぼんやりとフリューゲルを見つめたまま言葉を発しなくなった私を、フリューゲルが覗き込む。


「アーラ……」


 フリューゲルの瞳は深い黒をしていて、何も考えられずにただ黙って見つめていたら、突然、その深い黒色の中へ飲み込まれてしまうような感覚に囚われた。


 慌てて目を逸らし、私はフリューゲルの顔も見ずに、立ち上がると余裕のない声をあげた。


「もう何が何だか分からなくなった。ちょっと、頭冷やしてくる」

「アーラ。待って。もう夜だし、一人は危ないよ」

「いい。大丈夫。ついて来ないで」


 私を追いかけようと腰をあげたフリューゲルに、思いのほか厳しい言葉をぶつけてしまう。一人になりたかった。一人でゆっくりと考えたかった。このままフリューゲルと一緒に居ても、混乱したまま、何かを口走ってしまいそうで怖かった。


 ポツンと立ったままのフリューゲに背を向け、私は部屋を飛び出した。


 家を飛び出し、フラフラと夜の街を歩く。街灯が等間隔に灯っている住宅街は、それほど暗さを感じさせない。けれど、明るさの割に暖かさはなく、勢いで家を飛び出してきた私は、薄着の自分の肩を抱きブルリと身震いをした。


 何故部屋を飛び出してしまったのか、何故フリューゲルの目をきちんと見ることが出来なかったのか。自分自身の取った行動に説明が出来なくてはがゆい。


 モヤモヤとした気持ちのまま、肩を抱き、暖を取れる場所を求めて歩みを進める。

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