機械屋マローンの異世界再建記

伊垣 幹志(いがき みきし)

チュートリアル 持続可能な魔法文明の実現に向けて(1)

 栗林みな子(26)が異世界に飛ばされたのは入社3年目の秋のことだった。


 本題から話すのは社会人の常識テンプレなので、早速はじめよう。以下は、旧世界でポヨ山機械工業 機械設計2課 所属のエンジニアである栗林みな子(26)ことマローンが、魔ニッポンの国会で受けた世界観説明チュートリアルの概要である。

 

***


 マローンさん、弊文明は、魔力資源に依存して発展を遂げてきました。


 原初の人類が最初に魔力を発見したのは、洞窟で暗闇に怯える我らが祖先が、光あれと願ったとき、洞窟内に産した魔鉱石が反応したことがキッカケである、との通説です。やがて人類社会は、狩猟採集を経て、農耕時代に入りました。

 以来、長らく人類は、強く願えば、天にまします我らが主が、その願いを聞き届けてくださると信じ、土を耕すかたわら慎ましい信仰生活を送ってきました。


 魔鉱石が願望実現作用を有することを示唆する観測結果は、中世にはすでに相当の蓄積がありましたが、主の御業をたかが石ころの作用に帰する学説は異端視され、勇敢なる真理の探求者はことごとく迫害されました。火炙りに処せられたマペル二クスが刑場で言った、「それでも神は石ころなのだ」という最後の言葉は有名です。


 近代魔力文明の成立において決定的だったのは、人々の願いを聞き届ける魔鉱石の作用に関する魔力学の確立であり、かのマイザック・マートン卿が理論体系を構築されました。ただし、マートン卿の古典魔力学では、願望実現は敬虔な信仰者の純粋な祈りに基づくとされている点は、伝統的な信仰から脱却できていないと評するべきでしょうけれど。とにかく、ここから魔鉱石を資源と捉え、大量採掘・大量消費により文明発展の礎とする、魔産業革命の時代に突入したわけです。これと同時に、魔鉱石に願いをかける職業が、魔法使いとして成立します。余談ですが最初の魔労働組合が組織されるのもこの頃です。


 さらに時は流れ、現代魔力文明の確立者である天才魔力学者、マインシュタインは、魔鉱石の願望実現作用は、願う者の敬虔さとは魔反対…もとい、真反対の、欲深さを条件とすることを証明しました。有名な公式、e(vil)=mc2ですよ。これにより、魔法使いの人員選別や教育の質が飛躍的に向上、魔鉱石の願望実現作用はいよいよ強大なものとなり、文明進歩を一層推し進めます。これは、第二次魔世界対戦下、魔メリカ合衆国の魔ンハッタン計画に帰着し、強欲者グリードの世界破壊願望に基づく最凶の破壊力、魔核兵器の開発という負の遺産をも生み出しましたが。


 そして、戦後、魔力の平和利用の時代となり、とりわけ強力な願望実現作用を発揮しうる欲深き魔法使いグリードは、国家による厳格な管理下におかれることになります。もっとも、東西冷戦下で、魔核兵器開発競争は継続していましたがね。 

 そして、魔ビエト連邦の崩壊後の現代社会。


 目下のテーマは、持続可能性、SDGsなのですよ。マローンさん。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る