第十八話 「時が経ち 後編」
わたしが口を閉ざすと、静かな空気がその場に流れた。
しばらくしてようやく蘭が口を開くと、わたしの手を握って微笑を浮かべた。
「ずっとそんなこと気にしてたの? ……絵穹は優しいよ。そうやって気にしていたのも、最終的にはわたしを助けようと動いてくれたのも絵穹の優しさでしょう?」
「……でも」
わたしが呟くと蘭はニコリと笑い、ギュッとわたしの手を両手で包み込んだ。
「わたしを助けてくれたのは絵穹だよ。お礼くらい言わせてよ。最初は他の人と同じでも、自分で決めて行動したのは絵穹でしょ。その気持ちだけで、わたしは救われたの」
わたしはボロボロと自分の瞳から涙が溢れてくるのがわかった。
すると瑠梨がわたしの肩に手を置いて、優しい笑みで言葉を紡ぐ。
「わたしも絵穹ちゃんの優しさに救われたよ。喧嘩しても、嫌な態度をとっても、絵穹ちゃんは変わらなかった。優しい絵穹ちゃんのままだった。……それに、蘭ちゃんと仲良くなれたのも絵穹ちゃんのおかげだよ」
わたしはそんな大層な人間なんかじゃない、と否定をしたいのに、涙のせいで喉が乾いて声が出ない。
けれど、手や肩から伝わってくる二人の温かさが、涙と共に今までのわたしの中にある黒い靄を溶かしていくような気がした。
きっとわたし達は運が良かった。
わたしが蘭の叫びを聞いて、行動できたから。
蘭がわたしのことを許してくれるような、優しくて強い人だったから。
瑠梨が友達を大好きで、よく観察できる凄い人だったから。
たぶん他の人じゃ、こうも上手くいかない。
それぞれの欲望と暗い気持ちが入り交じって、何もかもが崩れていく。
わたしは、こんなわたしのことを優しいと言ってくれる尊い友達二人をギュッと抱きしめた。
「ありがとう……。二人が友達で、本当に良かった。大好き……」
「わっ。なになに〜、絵穹ってばデレ期?」
「蘭ちゃんったら。……ふふ、わたし達も絵穹ちゃんのこと大好きだよ」
二人はわたしを抱きしめ返してくれて、小さな子供をあやすようにポンポンと背中を叩いてくれた。
気付けば外は、ポツポツと雨が降り出していた。
未だに雨を見ると〝あの日〟のことを思い出す。
蘭が壊れた傘を手に持ち、暗い表情で立ち尽くしていた日。
その日の雨はとても冷たく感じたが、今日の雨は何だか優しい音を奏でている気がした。
「えっ、雨? わたし傘持ってきてない」
「わたしも……。今日、天気予報で雨って言ってなかったよね?」
蘭と瑠梨が困ったように扉の前で止まっていた。
その様子にわたしはふっと笑い、自分の傘を広げて二人の頭上へ持っていった。
「三人仲良く、相合傘でもする?」
わたしの言葉に二人はパッと顔色を明るくし、楽しそうに駆け足でわたしの傘に入ってきた。
わたし達は笑いながら道を歩き、雨の雫も楽しい音をたてながら道を照らしていった。
教室の叫び はっぱ @Misuzu_
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