第9話 俺に愛されたければ俺を愛するんだな

「以上が施設の案内になります。質問ありますか?」


 俺は雄一郎に施設内をひと通り案内し終えた。


「あぁ。

 じゃ次はキミの生活空間が見たい。案内してくれ、どこだ?」


「え……?」



「キミの生活空間が見たい、どこだと聞いた。案内してくれ」


「え?いやいや……なんで?」


「なんだ?見られては困るような生活をしているのか?」


「そんなわけじゃないけど……」


「世話をする側の生活や心が乱れているなら、それは自ずと預かっている子たちにも影響あると思わないか?

 お前たち家族の生活だって大事な視察要項だと俺は思うぞ?」


「はぁ……こちらです」


 戸惑いながら俺は案内する



 施設内を案内することは今までもしてきたことだから緊張はするも、嫌悪感はなかった。だが自分の部屋を見せるとなるとドキドキする。


「ここです……」


 部屋の扉を開ける。雄一郎は躊躇うことなく入っていく。

 隅から隅まで見られていく。

 なんだか自分の裸を見られているようで、恥ずかしい。


 改めて雄一郎をみる。

 背は高く、鍛えているのか肩幅もかなりがっしりしている。お洒落な服の下からこれまたお洒落な時計が見え隠れする。


「この部屋では1人になれるのか?」


「はい。朝は起こしにこられる時もあるけど、基本的にはここへは、誰も来ないです」


雄一郎は俺に近づいてきた。


「へー……、じゃこんなことしても誰も気づかなんだ」


どんどん俺に近づき、俺にキスをしようと顔を近づけてきた。思わず目を瞑る。


   今にも心臓が飛び出そうだ

   するのか?キスするのか?



 雄一郎は人差し指で俺の額を小突く。


「フッ、期待した?今日は何もしないよ。

 だがお前が望むなら、俺はいくらでもお前の相手をしてやれんこともないな。

 しかしそれには、どこぞの同級生とやらに心奪われてるようじゃだめだ。

 そんなお前には何もしないよ。

 俺に何かをして欲しいと思うのなら、お前は俺を愛し、欲し、焦がれた時、俺はお前の期待に十分応えてやる。

 お前を俺の愛でいっぱいに包んでやる。


 俺に愛されたければ俺を愛するんだな。

 そうだ、忘れるところだった。これは俺からお前への最初のプレゼントだ」


 雄一郎は、バックから一つの小箱を取り出した。どうやら箱から最新機種のスマホのようだった。


「これには俺への連絡先が全て入っている。仕事柄、手術中はさすがに電話に出れないが、折り返しは必ずする。

 これを使って毎週1度は園のことを俺に報告しろ。些細なことでも何でもだ。園でおこったことは全て報告しろ。


 GPSも入れといたからな。お前がどこで何をしてるかもわかるようになっている。

 もちろん俺の場所も同じようにわかるように入れといた。だからいつだって俺を訪ねてくれば良い。いつでも歓迎してやるよ。


 つらいとき、さみしいとき、誰かに話を聞いてほしいとき……どんな時でもどんなことでも俺に言ってこい。俺を訪ねてこい。

 俺の居る場所で、お前が訪ねて来てはダメなところなど、一つもない。

 あと、このスマホには限度額いっぱいの電子マネーを入れておいた。好きに使え。もちろんこれを使っていつでも俺に会いにくれば良い。

 残金が減ってるのが分かればまた送金してやる。だから安心して遠慮なく使え。お前がいくら使ってもそう簡単には使いきれないくらいの資金を俺は持っている。

 使い方はわかるだろう?

 じゃあ今日のところはここらで俺は帰るよ」


「待って!」


俺は雄一郎の腕を掴んだ。


「なんで?何?何なんですか?

 なんでこんなことするんですか?

 それに俺を愛せ?意味がわからない。何故俺があんたなんかを好きになるんだ!頭おかしいのか?あんた」


「わからないのか?」


「わかるわけないでしょ?初対面の相手にこんな訳わからないもの渡してきて……

 怖すぎるだろ!」


「これは俺からの労い、手助け、監視だ。

 親父さんが亡くなり、これからはお前がこの園を引っ張っていくんだろ?

 そんなお前には、いくらでも困ることが起きるだろう。どうすれば良いのかわからないことは山のように出てくるだろう。

 そんなとき、お前に必要なのは話し相手だ。

 相談とはとても難しいものだ。物事によっては守秘義務案件なものもあるだろうし、学生の友人に相談したってわからないことばかりだろう。

 へんな人に相談してしまったら、大変なことになるかもしれない。

 だから、相談相手選びは慎重に、重要なことなんだ。

 そんなお前には俺がついてる。

 俺が1番いいんだよ。

 俺は大人だ。

 賢く、世の中も、お前の世界のこともわかってる。

 だからどんな悩みでも聞いてやれるよ。

 そして、園にとって、お前にとって1番良い答えを出してやれる。一緒に考えてやれる。

 信じろよ、俺は創新会にマイナスになるようなことは言わないから。

 お前がダメなことを、園にとって悪くなるようなことをしないように、これは監視でもあるんだ」


 雄一郎の目はとても冷酷な目をしていた。

 怖いくらいの目に俺はそれ以上何も言えなかった。



 そして雄一郎たち親子は帰っていった。




 雄一郎が帰った後ひとり、部屋で渡されたスマホをながめる。電源を入れてみる。

 待受画面が早速アイツの自撮り画像だった。


「何だよこれ!」


 連絡先一番目に「☆」マークだけの電話番号が入っている。


「これがあいつの携帯番号か……」


驚くべきことは、2番目から10番目までも電話番号が入っている。

名前には、外科医局に、事務所、実家というのまである。


「何ヶ所コイツの居場所があるんだよ?」


 番号を見ているうちに俺は、さっき男からキスされそうになったことを、思いだした。

 自然と目をつむり、自分の指を唇に当てた。

 ハッと自分の行動に驚き


「電話をかけることなんてねーよ!この変人が!」


 俺はスマホを机の奥にしまった。

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