第444話 今とこれからのあり方

 そういえば、魔物の群れの掃討戦をしている時にもメキョッ!とかボグッ!とかゴスッ!とかいう感じの凶悪な音が度々聞こえていたような……。


「あの音の発生元はおばあちゃんだったんだ……」

「よく気が付いたねえ。と言いたいところだけれど、リュカリュカは中衛で仲間に指示を出す立場だったねえ。それならもっと広く視野を持って周囲の状況をしっかりと認識しておかないといけないよ。特に乱戦ともなると敵味方問わず流れ弾が飛んでくるかもしれないことを頭に入れておくべきだねえ」

「う……。はい、反省します」


 ついつい目の前の敵にばかり目が向いてしまうのは、指示を飛ばす者としてはやっぱり問題だよね。


「まあ、それはネイトも同じなんだけれど。むしろ後衛でいるんだから、リュカリュカ以上に場の様子を気にしておかないとねえ」

「え?わ、私は今のままで構わないのですか?」


 てっきり矯正を求められると思っていたのか、ネイトが素っ頓狂な声で尋ね返していた。


「お前さんたちがお互いに信頼し合っているのは、少し見ただけでもすぐに分かったからねえ。その中でしっかりと自分の立ち位置を確立しているんだから、今さらとやかく言うような事はないよ。それにさっきも言った通り、私は周りから魔法の才能があると言われていたのに、長杖こいつを振り回し続けてきたからねえ。頑固な偏屈具合ではお前さんにも負けちゃいないよ」


 ネイトの先生の生真面な性格も、頑固さの表れだと言い換えることができるかもしれない。そう考えると、結局のところ類が友を呼んだと言えそうな気がする。


「まあ、あえて先達として助言をするなら、下手な思い込みで自分の可能性を見限ったりはするな、ということくらいかねえ」


 可能性かあ……。確かにハルバードを振り回すだなんて、ボク自身『OAW』を始めた頃には想像もしていなかったものね。これも可能性が花開いた事例の一つということになるのかもしれない。


「人生なんていつだって、そしていつまでも研鑽の日々さ。腐らず諦めずにやっていくことだねえ。しばらくはこの街に滞在するつもりだから、相談事があるならいつでもおいで」


 そう言うと、おばあちゃんは『七神教』の神殿へと帰っていった。

 その後ろ姿が見えなくなるまでボクたちは深々と頭を下げたのでした。


「何というか、凄いお人だったね」

「まさか高司祭の方から、乱戦での心構えを説かれることになるとは思いませんでしたわ……」


 おばあちゃんを見送った後、ボクたちは再び食堂の席へと腰を下ろしていた。

 本当はこれからのことを話し合うべきなのだけれど、どうしても話題は先ほどまでのおばあちゃんとの会話に関連してしまっていた。


「ネイトもこれで吹っ切れたかな?」

「そう、ですね……。少なくとも間違ってはいなかったのだと、安心することはできたと思います」


 うん。自信を持つなんて口で言うほど簡単なことではないから、今のところはそれでいいと思うよ。


「そういう面でも、わたくしは恵まれた環境にいたのですわね」


 リアルでもそうだけれど、本人の自由だとか本人の選択次第だと言いながらも、なまじ才能や資質があると分かると、それを伸ばさなくてはいけないのだ、という風潮は確かに存在するので。

 ミルファのようにやりたいことと得意分野が一致していて、さらにそれをそのまま伸ばすことができたのは、恵まれた環境と言えるのだろうね。


「才能に可能性……。上位一次職へのクラスチェンジも近いし、そういうことも考えておかなくちゃいけない頃合いなのかもしれないね」


 先の掃討戦でボクたちは各自一レベルずつ上昇していた。

 ボクが十七レベルで、ミルファとネイトは十八レベルと、一度目のクラスチェンジができるようになるレベル二十に迫りつつあったのだ。


「上級職ですか……。確か細分化、専門化していく傾向にあるのでしたか」


 独り言を呟くようなネイトの言葉に、頷くことで答える。

 リアルや異次元都市メイションで調べたところによると、基本的には上位の職業に成るほど特定の方面へと特化していくようになるみたい。

 この辺りは技能とも似通ったシステムだと言えるかもしれない。


 ただし、そうした特化の枠にとらわれないおじいちゃんディランの<オールレンジ>のような特殊な職業があったり、<シーカー>や<シーフ>、<アルケミスト>といった隠し職業などもあったりするので、一概にそうだとは言い切れない部分もあるのだけれど。


「大事なことを忘れておりましてよ。大抵の場合は複数の職業が選択肢として提示されるという話でしてよ」


 その通りだね。ミルファであれば剣士系の上位職に当たる<ソードマン>、二刀流の<ダブルハンド>、魔法技能持ちなので<マジックファイター>辺りが選択肢の候補になりそうに思える。

 ネイトなら回復系重視の<プリースト>か、強化系重視の<ビショップ>のどちらかかな。〔杖棒技〕を取得しているので、もしかすると<モンク>という可能性もあり得るかも?

 あ、女性用名称がないのは仕様だそうです。


 以上のことからも分かるように、隠し職業に限らず上位職には習得している技能が大いに影響するようになっているのだ。

 むしろその技能を有用に扱える職業が提示される、という方が正しいかもね。


 ただ、これにも例外が存在していた。<テイマー>と<サモナー>の二種だ。


「ボクは<テイマー>だし、エッ君たちの種族もバラバラだから、多分<ハイテイマー>一択になると思うけどね」


 こちらは技能ではなく、テイムやサモンした魔物の種類や数などで上位職が決まるとされている。

 動物系ばかりだと<アニマルテイマー>や<アニマルサモナー>、その中でもオオカミ系統ばかりだと<ウルフテイマー>や<ウルフサモナー>となるという具合だ。

 他にも、一体だけしかテイム及びサモンしていない時に限り、<オンリーワン>に成ることができる等々、色々と隠し要素的なものもあるみたい。


 ちなみに、先ほど挙げた<ハイテイマー>というのは、どのような場合でも提示される基本的な上位職?という扱いのものだね。

 来る者は拒まずというか、縁があった子たちをテイムしてきたので、ユニーク系統には派生し難いと思われます。


「まあ、今日明日にどうにかなるものでもないから、今は頭の片隅にでも置いておけばいいんじゃないかな」


 これ以上は思考の渦に呑み込まれてしまいそうだということもあり、ボクはそう言ってやや強引に話を切り替えるのだった。

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