第290話 石板発見
結局、立体映像でも重要な部分は何一つ明言されていないままだし、元の目的である墳墓らしきところも見つからない。
この遺跡は大外れだったのでは?と考え始めていたボクたちだったが、この後事態は思わぬ展開を迎えることになる。
きっかけは気落ちするボクたちにエルが掛けた一言だった。
「せっかくここまで来たんやし、ついでにこの部屋もしっかりと探索しとこか。もしかすると隠し部屋なんかが見つかるかもしれへん」
それもそうかと気を取り直して、各自分散して部屋の中の探索を行うことになったのだった。
が、既にこれまでの探索で飽きてしまっていたのか、エッ君は立体映像をしげしげと眺めては足先や尻尾の先でツンツンと突いて遊び始めてしまっていた。
「まあ、リーヴが見守っているようだし危ないことはないかな」
これまで頑張ってきたことだし、これくらいはみんなも許容範囲だろう。その予想通りミルファたちも立体映像で遊ぶエッ君を微笑ましそうに見ていたのだった。
これならしばらくは放置しておいても大丈夫だろうとボク自身も部屋の調査に参加しようとした瞬間、ふと思い立つ。「あの立体映像の内側は一体どうなっているのだろうか?」と。
例えば、巨大な魔物と同じ扱いであるならば空っぽである可能性は高い。ゲームの容量の上限は決まっているから、目に触れる機会のない内部まで事細かく作成することはできないのだ。
この辺りは動作の快適性にも関わってくるので、仕方のない事だと言えるだろう。VRでのタイムラグなんて、どう考えても致命傷になりそうだものね……。
まあ、最近は現実志向と言いますか、倒した魔物の解体まで事細かにできるようなものまであるらしく、そうしたゲームでは内臓までしっかりと作り込まれているのだそうな。
ちなみに投影されている男性は全身ではなくお腹から上を拡大したような状態となっていた。ゆったり目の衣装とも相まって、もしも中に入ることができるのであれば、大人であっても数人くらいならば楽に隠れることができそうな大きさとなっていた。
う……。ボクの中で好奇心の虫がうずうずと疼きだしているのを感じる。
これもきっと立派な調査なのだ、と誰に向けているのかも分からない言い訳をしながら、ふらふらと甘い蜜に引かれる蝶のように立体映像へと近付いて行く。
「み、みんな!こっちへ来てください!」
切羽詰まったようなネイトの声が耳に飛び込んできたのはそんな時のことだった。
すぐに我を取り戻したボクは、それでもまだ気になると騒ぎ立てる好奇心君を無理矢理心の片隅にある小部屋へと閉じ込めて声のした方へと向かった。
「どうしたの?」
そんな内なる攻防が影響してか、ネイトの側へとやって来たのはボクが一番最後になっていた。
「これを見てください」
場所を譲るように一歩横へと移動した彼女の影から出てきたもの、それは重ねて置かれた数枚の石の板だった。もちろんただの板じゃありません。
「石板、だよね?文字を刻み込んで残している方の」
そう、何とこれは記録媒体としての石板だったのです!
「そうやろな。書かれてあるんは……、ちょっとばかり古臭い言い回しがあるけど、うちらが使こうとる文字と同じやな。普通に読み書きさえできるなら十分読める範囲やわ」
しかも内容もちゃんと読めるときた。
これは色々と種明かしをしてくれそうな気配が満々ですね!
「普通の読み書きできる範囲で解読できるということは、大陸統一国家よりも後の三カ国時代に入ってから書かれたものということでしょうか?」
「ネイやんの予想通りやと思うわ」
大陸統一国家がなくなった直後は、四つの地域に分かれてほとんど交流すらなかった時期があったそうだ。その期間はそれぞれの国や地域で独自の文化が発展を遂げることになる。
そして残念ながら、この大きな変化は古い時代のものをいくつも消失させてしまった。文字もその一つで、当時の識者たちが気が付いた時にはどこの国や地域も大きく変化してしまっており、もう元に戻すことは不可能なところにまできてしまっていたのだった。
それでも諦めきれなかったのか、彼らは国を超えて手を取り合い、大陸統一国家時代の文字をベースに新たな文字を作り上げていった。
これは三カ国時代に入ってから唯一、全ての国と地域の人々が協力して取り組んだ『言語再生計画』として大陸史に大きく記述される出来事となる。
そしてその時に生み出された文字こそが、現在この『OAW』の世界で使用されている『世界共通文字』だ。
はい。そこの人鋭いですね!
そう、『アンクゥワー大陸』内だけの共通文字ではなく、世界全体の共通文字となっているのです。大陸統一国家は元を正せば『古代魔法文明期』にまで
この辺り『笑顔』と『OAW』の共通点を確保するという思惑が感じられるような気もしていたのだけれど、この設定自体は『OAW』のサービス開始以前から『笑顔』内で普通に公開されていたものなので、特に何かを狙ったものではなかったようだ。
ちなみに、『世界共通文字』と大陸統一国家時代の文字の関係は、リアルでの現代文と古文の関係を思い浮かべてもらえると分かり易い。というかほとんどそのまんまだったり。
なのでリアルでの現代ニポンの義務教育レベルの知識を持っていれば、大陸統一国家時代のものであってもそれなりには読める書物もあるそうな。
さらに余談になるけれど、『古代魔法文明期』の文字の方は漢文にアルファベットな古代文字を合成したような謎言語と化しており、こちらは運営いわく「雰囲気重視であり、実は文字から意味を読み解けるようにはしていない」とのこと。
リアル知識で代用することはできず、解読したいのであれば素直に〔古代言語〕技能を習得しろ、ということであるようだ。
うおっと!盛大に話が脱線してしまっていた。
ともかく今は石板を読み解いていくのが最重要課題だ。
重ねてあった石板を慎重に持ち上げて並べていく。一枚当たりの大きさが四つ切画用紙くらいはあり、しかも厚みが三センチ程度もあるため重量もかなりなものとなる。
壊したりしては大変というプレッシャーもあってか、二人一組四人がかりでえっちらおっちら動かすだけですっかり息が切れてしまったのだった。
だが、その苦労に見合うだけのことが石板には記されていた。
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