第23話 自作自演
ネット投稿に無邪気に喜んでいられたのは最初の一週間位だけだった。
「どうして?」
私はパソコンの前で頭を抱えていた。
PVが伸びない。
いや、一作当たり数千PV位は出てるし、そんなに読んでもらえているのは凄い嬉しいんだけど、それで喜んでいられたのはランキングを知る前までだ。
コウヨムをはじめ、ネット投稿サイトにはランキングというものがある。各サイト毎の基準に従って投稿作品を順位付けするのだ。このランキングでの上位作品が書籍化を果たす。
つまりネット投稿から作家デビューしたければ、ランキングで上位になる必要があるのだ。そんな書籍化作品は少なくとも数百万PV、本当のトップ層ともなれば数億PVを叩き出している。
対して私は数千。これじゃあ箸にも棒にもかからない。
何がいけないんだろう?
数少ない応援コメントは私の作品を褒めてくれている。
でも、それは本当に短い雰囲気が好き、丁寧なんて言葉で細かいことはわからない。もっと意見を聞いてみたいけど、読者は私のお母さんでも友達でもない。それ以上のことを求められるわけもない。
……友達?
◇◇◇
「エレナちゃんと蓮君はネット小説って知ってる?」
翌日の休み時間。私は早速切り出した。
「うん」
「聞いたことはあるよ」
二人は肯定の頷き。よし。
「それじゃあ、読んだこともある?」
「ううん」
「僕も読んだことはないなぁ」
今度は二人とも首を振った。そうだよね、二人とも私と一緒でいつも紙の本を読んでるもんね。
「……実は面白い小説を見つけたから二人にも読んでみてほしくって」
「そうなんだ」
「なんて作品?」
蓮君とエレナちゃんがスマホをポケットから出す。お金持ちな清澄の生徒は、小さい頃からほとんどみんなスマホを持ってる。家からの電話もあったりするから、学校も取り締まってもいないから使いたい放題だ。改めて清澄って凄い。それとも時代の変化? 私が子どもの頃なんて親の携帯で友達とメールしてたなぁ。今思えばプライベートも何もあったもんじゃない。
なんていうことはさておき。
「二人が三人。三人が四人に。そしてっていう話」
私が口にしたタイトルを蓮君が調べる。
「これ?」
私の投稿作品が検索エンジンのトップに出る。
「うん」
PVは数千程度だけれど、こうして検索エンジンでトップに出るっていうのも凄いことだよなとちょっと嬉しい。
「よければ、読んで感想を教えて」
「うん」
「わかった。今度読んでみるね」
私のおススメに、二人は素直に頷いてくれた。……なんかゴメン。このお礼はいつか必ずするね。
さらに翌日の休み時間。
「葉月ちゃんって、やっぱり凄いね」
「え?」
エレナちゃんの唐突な誉め言葉に私は首を傾げた。
「この前教えてもらった小説読んでみたの」
昨日の今日で早速!? ありがとう~。
「ありがとう。どうだった?」
内心感謝の号泣と、目の前で感想を言われる緊張に心臓をバクバクさせながら私は聞く。
「葉月ちゃん、あんな大人の人の読む小説、読んでるんだね」
「……あ」
しかし予想だにしなかった言葉に、私は間抜けな声を出した。
そうだ。身近な感想が欲しくてエレナちゃん達に自分の小説をおススメしてみたけれど、あれは小学三年生が読むようなものじゃなかった。
「ゴメン、難しかったかな?」
自分の失策を理解して聞き返す。
「ううん。知らない漢字があったりするけど、お話自体は好きだから。今週中には読めると思う」
「ありがとうぅー」
嬉しさに私は泣きそうになりながらエレナちゃんを抱きしめる。
「お礼言われるようなことじゃないよー」
そんな風に言いながらも、エレナちゃんも私をぎゅっと抱き返してくれる。エレナちゃん、好きー。
「蓮君は?」
エレナちゃんと抱き合ったまま、蓮君に顔を向ける。蓮君ももう読んでくれてるのかな?
「少し知らない漢字もあったりするけど、大丈夫」
蓮君もありがとうぅー! そして流石!
普段からミステリーとかどっちかというと大人寄りの作品を読んでるだけあって、蓮君はエレナちゃんよりは余裕がありそうだ。
「普段読まないような作品だから面白いよ」
「ありがとう」
流石に男の子な蓮君は抱きしめられないけど、そうしたい位に感謝感激。
「なんの話してるの?」
話についていけない秀一君が首を傾げた。秀一君もたまにこの集まりに顔を出すのだけれど、昨日はいなかったから当然話についていけない。
「葉月ちゃんのおススメの小説の話だよ」
「へえ。なんて小説?」
エレナちゃんに教えてもらって、秀一君もスマホで私の小説を見つけた。もしかして秀一君も読んでくれるのかな?
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