序章・〜使者たち〜(ニ)
そこは、一見すると暗闇の世界。
だが、眼を凝らし耳を澄ませば、朧げながらに蒼く発光した謎の物質が無数に漂うのと、耳障りな金属音が幾度も鳴り響き、輪郭程度に人影も確認する事ができる。
そんな中で、一際美しく輝く碧い球体・惑星が存在した。地球である。
しかし、主に大陸と海洋方面で瞬く間に灼熱を感じさせる発光現象が幾度も世界各国で、地域でその事象を認識・観測可能とし、それを、額から一滴の汗を垂らせながら凝視する者が居た。
先程の人影である。
彼はアジアとユーラシアの近辺に位置する場所である特殊な瞳の状態で神経を尖らせ鋭い眼付きで必死になってある男を探している。
彼の瞳は、謂わゆる《瞳力》と呼ばれているもので行使する際には、どの《瞳力》も例外なく瞳に印象的な紋様が表れる。現に、彼の虹彩には十芒星が万華鏡の如く各々左右に五芒星を形成し廻転、円環状の異なる三つの輪が闇色に渦巻き迸らせた独特な《瞳力》の『固有の力』で満遍なく血眼になり約二十年ほど探しているのだが、未だに発見する事は叶わずにいた。
すると、《瞳力》から闇色の光が明かりが付けては消えるかの様に点滅を繰り返しはじめ反応が徐々に弱くなってゆく。《瞳力》の使用時間が差し迫っているのだ。
それは、本人も自覚していた。
鼓膜に突き刺さるまでに肥大して鳴り響く不快な金属音を頭の片隅で警戒しながらも。
優先事項の一つとして、あの男を見つけ出さなくてはならない為だ。
そして、彼は更に血走ったかの様に目元に神経を集中させて《瞳力》を限界まで振り絞り捜索を継続する。
その影響か、彼の周りで小さい火花がバチバチっと幾度も燦爛して弾けて、朧げな蒼く発光した《魂》たちが慌てて距離を取り、避難を余儀なくされる。
しかし、結果はいつもと同じで発見する事は叶わなかった。
《瞳力》を限界まで使用した影響で疲弊状態となった彼は、これまた突然物静かとなり耳障りな金属音が鳴り響いてこない事えの胸騒ぎと、突如行方を晦ませ所在不明となったある男の捜索で発見に至らなかった事に対する無力感を覚え抱いて居ると、それをまるで宥めるかの様に太陽の光がまばゆく彼を照らし、その風貌が露わになる。
肩下まで伸びた漆黒の黒髪に、無数に切り刻まれた痕があるズタボロのローブを羽織り、その下には浴衣を着ているのが特徴的な男性。年齢は大体三十代後半から四十代前半の顔付きをしているが、一体いつの時代からこの空間に居たのかは定かではない為、詳細は不明である。
《瞳力》の使用時間により瞳が黒眼に戻った彼は、静寂と表すまでに不気味な程に鎮まった空間を一瞥見渡すと、一歩、また一歩と重い足取りで踏み出し別件で封じた存在の状態確認を取りに向かった。
約十分程で、彼は透明度の高い精密で精巧な硝子細工の球体状の眼前まで辿り着いた。人一人分の距離を置き、少し回復した《瞳力》を行使して、厳密な分析を開始。その解析結果が、思考を過ぎる度に安堵を抱くが、先程まで胸の内で蟠っていた胸騒ぎの正体が不明瞭な状況に違和感を覚え、透明度の高い球体状に封じた濃密な紫色の《魂》を剣呑な眼で凝視する。
すると、絹糸の様な長い黒髪と黒眼に、容姿端麗で蠱惑的な美女が全裸で半透明に浮かび上がり、薄く微笑みを返す。
その美貌は、十中八九男なら一目惚れするには十分過ぎたものだが、互いに事情を知る者同士としては、更に警戒心を一段と高める理由にしかならなかった。
それは、特殊製の硝子玉に封じられた美女も飄々とした態度で理解した上での様子。だが不意に、哀れみをも含んだ眼差しとともに問い掛けられる。
「・・・・・・・・前座の《冥帝》は、見つけられまして?」と。
唐突に眼前で、独り言を呟く様に発した彼女の意図が分からず胡乱な眼で睨む。その様子が、また彼女を僅かに刺激した為か、表情が愉快なものに変わり嗤い声を上げた。
それから「まぁ、私の一言一句に一挙手一投足の機微を警戒するのも無理はないですけれど。ですが、貴方の状況は思う程に芳しくないご様子。そこで、暇潰しにあの連中に代わり、この私があの男の居処をお教えしますよ。旧友の仲の好身で」と、穏やかな声音で告げる。
「それを
それには思わず浅く溜息を零すと、呆れた表情になり「随分と失礼な返答ですこと。その凝り固まった思考は、数刻前の尊く美しい
「君は、私よりも賢い。様々な事情の理由で認めたくはないが。
それでも、この状況・状態でも問題なく対処ができてしまう程の叡智を兼ね備えてしまった君なら何等かの細工を施している可能性があると疑いもする。それに《現世》で、・・・・・・・・まさかあの様な凶行に及ぶとはな」
それに、不敵な笑みで「最後の一文、そっくりそのままお返ししますよ」と、皮肉に応じる。
即座に、口答で厭味も多分に含んだ問答を繰り返す事に、このままでは埒が明かないと判断した彼は、先程の申し出に対して返答をする。
「久方振りの挨拶代わりに貰った提案だが、断らせてもらう。
私には既に仲間と、その他に協力関係を結んだ方々が数十名居る。
それは君も既に認知しての事。それを
興が削がれた為か、退屈そうな顔色を見せる眼前の美女が放つ独特な異才の雰囲気に呑まれない様にしながらも、彼はある意味で同じ空間に居る、自分の仲間が《瞳力》の利便性を活用またはこの空間が地球をまるで衛星かの様に観測を可能とする独自的な性質を用いて、今尚も捜索してくれて居る事を理解しており、それを誇れる
「・・・・・・・・はぁ、別に何も私は要求している訳ではありませんよ。
単なる退屈凌ぎに、他の光景も観たいなと想っただけです」
この空間に居る誰もが、一応に観測をも可能とする。
それは特殊製の硝子玉で落胆の表情と態度を表している彼女も例外ではない。
だが、不可解な現象を見過ごす訳にはいかない為、彼は一つ問い掛け返す事にした。
「なら、先程までにあの鼓膜を突き破る様な不快な金属音が一体何か説明は可能だと言うのか?」
すると、またあの耳障りで不快な金属音が不協和音を奏、鳴り響きはじめた。即座に、その現象を明らかにするべく努めた彼は手で両耳を覆い堪えながら見据えるも驚愕の表情を露わにする。理由は、あらゆる《術式》・《法則》そして《干渉》を無効にし、無力化する特殊製の硝子玉が何と小刻みに震動を繰り返していた事、それも耐久性に限界が達した為により亀裂が生じて次第に硝子片が散らばりはじめ、恐れていた事態に陥った為である。即刻、修復作業に取り掛かろうと右手を伸ばすも近場で受ける不協和音で目眩と脳振盪の様な状態に追い込まれ、再度両耳を手で防ぎ、呻く事で精一杯の状況に。
それを凛然な態度で美女は疎ましそうに眺めていた。
無数の亀裂が球体に生じ軋んだ事により彼女の《権能》が使用可能と成った為か、それとも既に《魂》にあらゆる耐性を持たせていた為かは定かではないが、別件で一刻を争う事態は避けねばならない。
だが、時既に遅く遂に硝子玉が粉砕。《現世》でなくとも解放され自由を手にした眼前の圧倒的な存在に勝ち筋を見出すのは至難の業。
不快な金属音が鳴り止むも、《瞳力》を無意識下に解除するまでに弱った彼だが、右脚を前に指し向け美女を見上げ応戦の構えを見せる。
そんな彼を前に、濃密な紫色の《魂》を核に半透明の全裸状態で浮かび上がる黒髪黒眼の美女は悠然な姿勢で見下ろし、質問に応えた。
「《現世》が、私を呼んでいる。貴方には、この言葉で意味が伝わるでしょう」
自分の問いの答え合わせに、渋面な顔色を浮かべる。
全ては、仕組まれていた。彼女が此処に居たのは単に休憩と世界観察の為、不意にその可能性が
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