第2話 自称天使田中、登場!

 理解が追い付かない状況に、俺はその少女を見ながらゆっくりと首を傾げる。

 すると、少女も同じ様に首を傾げた。


「……あ~なるほど。まだ夢か。よし、寝よう」


 俺はそう思い、そのままベットに入ろうとしたが目の前の少女に呼び止められる。


「おいおい、何で寝ようとしてるの。わっちをなかった事にしない。これ現実だから、たかちゃん」

「んなあ訳ねぇだろ。てか、どっから入って来たんだよ? 何で宙に浮いてんだよ。変な夢過ぎだろ」

「質問が多いな、たかちゃんは」


 そう口にしつつあきれ顔をする少女。

 そのまま宙に浮きながら俺の方に近付いて来ると、突然ビンタをされる。


「いっってぇ! 何すんだきゅ――」


 俺がビンタされた頬を抑えながら口を開いた直後、少女に再びビンタされた。


「な、何だよお前! 何でビンタしてくるんだよ! しかも二発。おかしいだろ! 俺話してたよな?」

「だって、たかちゃんが夢とか言うから。現実だと分からせる為に仕方なく」

「何が仕方なくだ。うっすら笑いながら言うな! 後、たかちゃん呼び止めろ!」

「ね、夢じゃないって分かったでしょ? これは現実、そしてそのタイムリミットを刻んだのはわっち。それが『0』になったら、たかちゃんはこの世とおさらば。わっちはそれを見届ける天使。名は田中。よろしく」

「天使? 田中? ってか、お前がこれやったのかよ!? それで死ぬって何? ……あ~意味が分からん」


 俺は突然な情報量の多さに、頭を抱えた。

 完全に頭がこんがらがってしまい思考が完全に止まる。

 すると自称天使田中は、俺の周囲を何故か飛び周り始める。


「思考停止中だと思うけど、わっちはこのまま話すよ。君は神様からの試練を与えられたんだよ。その試練をクリアするまでの日数が、その数字なんだ。たかちゃん、最近よく夢見が悪かったでしょ? それはタイムリミットが『0』になった時にあり得る未来の自分さ。簡単に言えば予知夢ってやつかな」

「……」

「でも大丈夫。試練さえクリアすれば数字は消えて、死ぬこともない。試練を乗り越えた先に待つのは、今より楽しい人生さ」

「……け」

「ん? 何か言った?」

「出てけって言ったんだよ」

「いやいや聞いてよ、たかちゃんって何するの!?」


 俺はフワフワと浮いていた田中を捕まえ、そのまま窓を開けて外に突きだす。

 そして直ぐに窓を閉めカーテンを閉める。


「全く、朝から分けわかんねぇ事言うなよ。変な幻覚見るし、疲れてるのか俺?」


 そのまま俺はもう少し眠る事にし、ベットへと入り目を瞑った。

 一方で窓から追い出された田中は、口が開いた状態で締めだされた窓を見つめていた。


「呆れた。まだ夢とか思ってるのか。一気に真実を伝えたのが失敗だったかな? でも、マニュアル通りだしな。ま、いっか。どうせ直ぐに分かってくるだろうし」


 田中はそのまま浮いた状態で口笛を吹きながら、立ち去って行くのだった。


「ん? 今何か飛んでた? いや、気のせいよね」


 その時詩帆が自宅のポストから戻る時、偶然田中の姿を目撃するもはっきりとは見えていなかった為、気にせずに家へと戻るのだった。

 それから俺は二度寝から目を覚まし、いつもの様に学園へと向かった。

 いつも通り授業を受け、帰宅するという日常を過ごし、その日は自称天使田中も現れる事もなかった。

 やっぱり夢だったんだと思って気にも止めずに、それから数日間過ごした。


 その期間も右手の数字も減って行き、毎日の様に似た夢を見続け、数字が減るにつれ死に方がえげつなくなっていくのを実感していた。

 そこで自称天使田中の存在がちらついたが、関係ないと頭を左右に振った。

 そして最初に右手に数字が刻まれてから一週間が経過した。

 遂には体調にも影響が出始めた。

 毎日の様に告白を断られ死ぬ夢を見続けた事で精神的に辛く、学園に行ける気持ちになれずに休んだのだ。


「くっそ……何なんだよ、毎日毎日。何だって、俺がこんな目に遭わなきゃ行けねぇんだ」


 俺はベットに横になりながら右手の甲を見つめた。

 数字は既に『24』にまで減っていた。

 ……信じたくないが、あの日幻覚やろうが言ってた事は本当だったのか?

 ここ二日程、自称天使田中と会った日の事をふと思い出しては考えるようになっていた。

 ここまで来るとあれは本当に現実だったのかもしれないと、感じつつあったのだ。


「と、手を天井に伸ばしながら、たかちゃんは悟ったのでした。あの日、田中の言う事を聞いていればと」

「ああ、そうだな……ん? 誰だ勝手に俺のモノローグを口に出した奴は!」

「はい、わっちです。田中です」

「お前かー田中! つうか、どうやって入って来てんだよ」

「それはもちろん玄関らかに決まってるでしょ。わっち、こう見えてもマナーはしっかりしてるんで。それと今日は以前付けてなかった、天使ぽい輪っかを頭に装備してきました。どうです、ザ・天使って感じじゃありません?」

「……それ着脱方式なのかよ」

「反応微妙ですね。じゃ、いらないか」


 そう言うと田中は速攻で輪っかと、まさかの羽までをもとって投げ捨てたのだ。

 思わぬ展開に俺は目を疑った。

 そして田中は宙に浮いたまま、部屋をぐるっと見回した。


「ちょっと汚くなった?」

「うるせぇ、いらない事言うな。それよりも、これどうにかしてくれよ」


 俺は田中に右手の甲を見せつけながら、刻まれた数字を指しながら問いかける。

 その問いかけを聞いて、田中は深いため息をついた。


「やっと自分の状況を理解したか、なら分かるだろ。それから解放されたいなら、自分自身で試練を乗り越えないといけないって。それ以外に解決策はない」

「でも確か前に、これを刻んだのはお前だって言ってたろ。なら、解く事も出来るんじゃないのか?」

「それは出来ないの。わっちたち天使は神様から試練を与えられた人に、それまでのカウントダウンを刻み、見届ける係り。試練を乗り越えるお手伝いは多少できるけど、カウントダウンの解除できない。仮に解除出来たとしても、試練を乗り越えてなかったら、その時点でたかちゃんは死亡確定。オーケー?」


 こいつが何なのか、どういう存在なのかと言う疑問は山ほどあるが、教えてくれてる事は嘘じゃなさそうだな。

 いや、ここ数日の実体験から信じる他ないって方が正しいか。

 このままだと俺の命は後二十四日しかなく、神からの試練とやらを乗り越えない限り死ぬ。

 目の前の自称天使田中は、与えられた試練の見届け兼サポート役として派遣されて来たって感じか?


「そそ、そんな感じ」

「っ!? お前心でも読めるのか?」

「ちょっとだけね。なんてったて天使だし」


 何故かそこで胸を張る田中に、俺は小さく笑う。

 天使とか言ってはいるが、見た目は子供だし年相応な感じで微笑ましな。

 するとぐっと自称天使田中が近寄って来た。


「今わっちの事を、子供っぽいと思ったな」

「……いや」

「はい嘘ー! たかちゃん、今目逸らしたもんね~。わっち知ってるもん。追求されて目を逸らすのは、嘘をついてる証拠だって事」

「そんなの何処で覚えたんだよ。いや、そんな事よりも試練だよ、試練。その俺に与えられた試練ってのは、何なんだ? まさか、それすら教えてくれないって事はないよな」

「それはもちろんないよ。そこまで神様も意地悪じゃないからね」


 そこで俺は安堵の息をついた。

 自称天使田中はそこで改めて真面目な顔をする。


「たかちゃん。いや、小鳥遊祐樹。君に与えられた試練は、三十一日以内に彼女を作ることだ!」

「……はぁ?」

「だから、彼女を作るんだよ。たかちゃん、彼女まだいないでしょ? それに彼女欲しいでしょ?」

「そ、そりゃ欲しいけどよ。本当にそれが神様から与えられた試練なのか?」

「わっちは嘘は言わないよ。でも試練達成には条件があるんだよ」

「条件?」


 俺がそう訊き返すと、自称天使田中はポケットから何かを探し始める。

 探し物がすぐに見つからない様子だったが、ようやく目的の紙切れを取り出しそれを読み始めた。


「たかちゃんの条件は、告白は一度のみ。玉砕したら、そこで終了。これぞ、人生の試練なり! だって」

「いや。いやいやいや、告白一回だけで彼女作るの!? しかも断れたら終了って、死って事か!?」

「たぶん。一応夢では教えてるよハ~トって神様からのメモには書いてある」

「ハ~トじゃねぇわ! 確かに夢で毎回玉砕したら死ぬ夢だったけど、ハードル高過ぎだろ」

「確かに、たかちゃんは既に七日間も何もせずに消化しちゃってるし。あ、でも片想いの人がいるなら、その人にアタックすればいいんじゃない?」

「いや無理だから。冴島と接点すらないのに告ったら、それこそ正夢だよ」

「じゃ、そこら辺の女性を口説いて告白する? わっちはどっちでもいいけど、どうせ死ぬなら好きな人に想いでも伝えて死ぬを選んだ方が幸せじゃない?」

「勝手に死ぬ未来へと誘導するな」

「なら、告白を成功させて人生の試練を乗り越えるしかないね」


 確かにそうだ。こいつが言っている事は正しいし、それ以外に道は残されてない。

 でも告白って言われても、親しい女子はいない事もないが、恋愛対象じゃないし好きでもない人に告白なんて出来ない。

 その時、一瞬詩帆の顔が浮かぶが、俺は首を振った。

 ないない。あいつは妹だ。そもそも、俺を異性として見てるわけない。

 ってなると、やっぱり冴島しかいないよな……


「どうだ? 覚悟は決まったか?」


 と、自称天使田中が考え込む俺を覗き込む様に近付いて来た時だった。

 扉の方から何かが床にどすっと落ちる音が聞こえた。


「嘘……ゆうちゃんが、小さい子を連れ込んでるー!?」

「っ、うみ!?」

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