第28話 岡引一心舛上椋を問い詰める
「実は、椋さん、佐音綱紀さんを探し出して警察と一緒に会って話をしたんですよ」
椋は特段驚いた様子は見せない。
「それで、綱紀さんの子供のころの所在が分からなかったんで、そこを尋ねたら自分は舛上椋だったと言い出しまして、そうすると舛上椋さんが二人いることになっちゃうんですよ。そんなことは有り得ない。綱紀さんの今の仕事はあなたが声を掛けてやらせたそうじゃないですか。彼はとても感謝していました。いつか恩返しをしたいとまで仰ってました。そんな彼が子供の頃の事で嘘をつくなんて考えられないんですよ。俺も警察も公表なんかするわけないし、あなたの親族にも話すことは無いでしょう。だから正直に言って貰えませんか?」
椋はまったく動じる様子を見せずにコーヒーを啜っている。
「奴とは偶然『みちこ』という居酒屋へ女連れで入ったときに出会ったんだ。向こうから佐音綱紀と名乗って話しかけてきた。私はその名前に負い目を感じていたんだ。私が舛上椋だと確認された結果、彼は家を追い出されたと聞いていたからな。それで私が役員になった最初の仕事で彼に社長をやらせるために飲食店ビルを建てることにしたんだ。……これで良いだろう? 私の子供のころの話はあんた方の言う2件の殺人事件とは何の関連もない。そうだろ?」
やはり椋は口を開こうとはしないが、少なくても子供のころ舛上家にいたのは、佐音綱紀だと認めた。
「いまのところはそうですが」
「じゃぁ、私は過去の事を話したくない。母もそうなのだろう。そっとしておいてくれ」
話の最中に秘書の女性が顔をだした。
「社長、貿易協議会の会長さんがお見えです」
それをきっかけに椋は腰を上げるので、やむを得ず一心も立ち上がった。
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