第17話 新たな地獄
「薬を飲めば
すぐ動けるようになるよ」
彼女が話した事、
それが事実であった事は
すぐに解った
彼女の【助け】を得て
“件の食事”をどうにか”完食し
最後に残った
得体の知れない薬まで服用した
その後、
体感的には
三十分もしない内に
あれ程まで動かなかった身体は
多少の口の動かし辛さ
それと、時折襲ってくる吐き気は残るものの
それ以外は
一通り動かせる様になった
彼女は、俺の革手枷を解きながら
「言った通りでしょ?」と
何故か、少し誇らしげだったが
確かにー
それは
その通りでー
しかし、
やはり気恥ずかしさからか
「そうだね」との言葉は
何とか口には出来たが
「ありがとう」
と伝える事は
到底
出来そうになかった
後になって
この時の自分の事は
“マセたクソガキ”だと
思っているが
恐らくは、どこで知ったか
“ファーストキス”という単語だけが
何度も何度も
頭を過り
しかも
前述の「私もそうだった」との
彼女の言葉が更にモヤモヤと
心をざわつかせていた
そう思ってくれていい
さて、だが
ここからが本題だ
彼女に会った直後
俺が彼女に【助けて】もらった
食事から数えて二回目の食事の後
ぼんやりと時間の感覚が掴めだした為に
気付いた事だが
まだ次食事には早すぎる時間に現れた
迷彩服の男は
当然ながら手ぶらで
突然、
彼女だけに牢を出るよう指示をする
彼女はこれまでに見た事がない程に
暗い
そして、彼女は
迷彩服の男の指示に大人しく従い
俯き、無言のままに牢を出る
その時の彼女の表情は
見ている此方が恐ろしくなる程
無機質な物だった
無論、
「どこに行く?」
などと、
気軽に、
それどころか真剣にさえ
聞ける空気ですらない
恐らくは、
この時、彼女の眼には
俺の存在など
到底映ってすらいない
そんな余裕など
きっと微塵もないのだ
そして、
迷彩服の男が何処から来たのか
加えて、彼女の行き先が何処であれ
その行き着く先には
希望なんて、
あるはずもない
一人残された牢は
先程までとは比べ物にならない程に
暗く、寒く、寂しい空間だった
そうしていると
施設ここに来てからの
全ての出来事が、嫌でも
走馬灯のように過る
この数ヶ月というもの
本当に、
色んな事が起き過ぎた
夢か、幻か
と、疑う前にも
腕を見れば
まだ痛々しく残る注射痕と
生々しい手枷の痕が
これが現実である
と、声なく訴えてくる
状況の改善を望む事は勿論、
無意味に思え
抵抗など
以ての他だ
それならば、いっそ、
一思いに殺してくれたなら
随分と楽かもしれないのに
きっと彼らは
そんなに“優しく”なんてない
多分じゃなく、俺等に
何かしらの利用価値がある限りは
文字通り
【生かさず殺さず】だ
以前の点滴から、
経口投与、と
形は変われど
今尚続く投薬はその表れ
恐らくは、それに依って
俺の視力には変化があった
だけど、その先は
まるで分からない
この変化だって
言ってみれば
視力が良くなっただけだ
これが一体、
何の役に立つと言うのだろうか
そして、どんな利用価値が
あると言うのだろうか
それに
この視力は知る限り
人並みを越えている
それは些細なものとは言え
畏怖の対象には
なり得ないのか
勿論、所詮は子供の腕力
大人の、それも特に男性には
到底及ばない【はず】だ
これまで考えた事
その全てが
言うまでもなく
余計だ、とは自覚がある
どの疑問も
いくら考えた所で
明確な答えなど
出る事はないのだから
それに
現状を変える事など
出来ないのだからー
【無知は大罪である】
そんな言葉を聞いた事があるだろうか?
ならば、知るべき事柄を
どうしても知る術がない
非力な子供は
どうすればいい?
情報を遮断され
狭い世界だけしか教えられず
知る機会すら奪い取られた
そんな無知で
馬鹿な子供は
果たして、
皆が言う様な
【大罪人】だろうか?
「そうだ」
と、
そう言うなら
どうか教えて欲しい
微かに足音が聞こえてくる
聞き覚えのある
片足だけ重量感のある
そんな足音
思わず、
廊下を見る
足音は
確実にここを目指している
そしてー
迷彩服を纏う男
その肩には、
まるで雑多な荷物
もっと言えばゴミでも扱う様に
雑に担がれた
彼女
指先から
ポタポタと滴る鮮血
男は彼女を
乱暴に放る
粘着質の液体に
濡れた物が
床を転がる
その独特の音は
やけに煩く響き
耳にこびりつく
誰か、どうか、
教えて欲しいー
俺は一瞬の
間の後に
彼女に駆け寄る
昨日より明らかに
そして遥かに
酷くなった
無数の傷
辛うじて
苦しそうに息をしていた
そんな状態でも
確かに生きている事に
安堵し
同時に、この時、
一瞬でも躊躇ってしまった事は
今でも後悔している
彼女をも
【大罪人】と言うなら
こんな酷い仕打ちをされる程の
【大罪人】だと言うのなら
もしも、
それに対して
懺悔が必要なら
そんな物
俺が
いくらでもする
だから
教えて欲しい
俺等は
何か
赦されない事でも
したのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます