第8話 王女釣り

 結局、有り金でそれなりの剣を二つ買って武器屋を出た。虚空刀を買えなかったのは惜しいが、店主には必ず金を用意するからとキープしてもらっている。


 だが、3000万圓を直ぐに稼ぐのは現実的ではない。やはり、王女釣りを決行しなくてはならないか。俺は共に歩くシルのはしゃぐ姿を見ては、申し訳なくなる。せめて、最後くらい冒険させてあげるか。


「よし。このまま町の外に出るぞ」

「外! てことは魔物討伐?」

「そうだ。依頼を受けなくても、魔物から体の一部を剥ぎ取ると、討伐した数に応じて報酬が出るからな」


 表向きはそう言ったが、これはこれからシルを国に引き渡すことへのせめてもの償いだ。シルは冒険に憧れている。戦闘くらいさせてあげたかった。


 だが、そんな目論見も破綻する。考えてみれば当たり前のことだ。一国の姫が消えたのだ。王都の外に繋がる門に警備兵がいるのは当たり前だ。これで壁の外への冒険ができなくなる。


「セカイ……。どうするのよ」


 俺が建物の陰に隠れながらこっそりと門を伺っているとシルが心配そうに聞いてきた。俺はある決断をしてからシルに頷いて応える。


「うん。一旦宿屋に戻ろう。それから考えようか」

「そ、そうね」


 宿屋に戻ると、シルは冒険を待ちきれないのか、冒険への憧れを語りだした。


「それでね。子どもの頃から冒険者になるのが夢だったのよ。本当はさ。本の中の冒険者みたいにパーティーを組みたかったんだけど、怖くて。ほら、身バレしたらだめでしょ?」

「そうだね……。そう言えばどうやって抜け出したの?」

「それは、隠し通路をこっそり。隠し通路って古いから案外知られてないのよ」

「へー」


 俺はジルの話に相槌を打って、質問してを繰り返す。案外心を開くと話好きなんだなと思った。まぁ、そりゃそうだろう。冒険者に憧れるくらいなんだから。


「俺、そろそろ夕飯買ってくるよ」


 そう言って俺は部屋を出る。心残りといえば、シルを壁の外に連れ出せなかったことだが、冒険者の服と剣で我慢してもらおう。俺は日が暮れ始めた街へと繰り出した。



 ◆



 宿屋から出ると、俺は街を歩き回る。そして、大慌てで見回りをしていたある女騎士に話しかけた。


「あの。すみません」

「なんだ、君。今はかまっている余裕はないんだ」


 女騎士は俺をよそに先を行こうとする。だが、俺はそんな彼女を呼び止める言葉を知っていた。


「王女見つけましたよ?」

「それは本当か!」


 先程までの素っ気ない態度とは打って変わった様子で女騎士は俺の方へと歩み寄る。すぐさま俺は「ええ」と頷いて応えた。


「王女は無事なのか? 今はどこにいる?」


 女騎士はだいぶ取り乱しているようだった。俺は安心させるように女騎士へと「王女は大丈夫ですよ」と告げる。すると女騎士はひとまず胸をなでおろしたようだ。そんな女騎士に俺は一つ大事なことを尋ねた。


「それより、報酬はちゃんと支払われるのですよね?」

「報酬? ああ、もちろん。だが、君。もし嘘だったら罪に問われることもありえるぞ? 本当に王女を見つけたのか?」

「ええ。神に誓って」


 俺は強く確信して頷くと、女騎士に「こっちです」と言って、王女の待つ宿屋へと案内を始めた。



 ◆



「ただいま、シル。お客さんがいるんだけど」


 そう言って俺はシルの待つ部屋のドアを開けた。シルはベッドに腰掛けて、先程買った剣を眺めていたが、顔を上げて首を傾げる。


「お客さん? 誰?」

「ジル王女! よくご無事で!」


 ドアを開けた途端、外で待っていた女騎士が俺の横を通ってジルの元まで駆けつけた。その瞬間、シルの顔が歪んだ。


「もしかして、セカイ!」


 シルは俺を見ながら悲痛な声を上げる。忽ちに部屋を数多の騎士たちが埋め尽くした。


「あなた、騙したのね……」


 シルは俺の方を見る。きっと恨んでるだろうな。本当に申し訳ない。


「すまない。だが、こうするのが君のためだ」


 本当は金のためだ。だけど、国は王女が行方不明となって困っているわけで、俺、悪くはないと思うんだ。うん。誰も悪くない。これで王女も無事に国に戻るし万事解決ではないか。


 俺が王女釣りの正当性を考えていると、先の女騎士が語りかけてきた。


「嘘ではなかったんだな。約束通り、報酬の一億圓が支払われる。王城まで付いてきてくれるか?」


 よし。計画通りだ。これで虚空刀が無事に手に入る。俺は罪悪感を噛み締めながらも女騎士に頷いて応えた。


「王女様。では、帰りましょう」

「はい……。でも、その前に一つ」


 何故かシル改めジル王女は俺の方へと歩いてきた。ビンタでもするのか? まぁ、ビンタの一つくらいは覚悟はしていた。だが、ジル王女は俺に向かってお辞儀をしたのだ。


「セカイ。ありがとう。少しの間だったけれど、楽しかったわ」


 そう語るジル王女はとても悲しそうな顔をしていた。せっかくの美貌が台無しだ。そして、ジル王女は女騎士やその他の騎士たちとともに宿屋を出ていった。


「正直すまんかった」


 俺はジル王女が消えていった扉に向かって、誠意を込めてお辞儀をするのだった。



 ◆



「これで一億圓だ」


 ここは王城の一室。俺の目の前には金貨の山がある。俺はそれを空っぽだった自身のインベントリに仕舞っていく。インベントリはゲーム内と似ていて、基本的に生き物以外は中に入れることができる異次元ポケットのようなものだ。


 満たされていくインベントリだったが、同時に俺は何かを失っている気がした。


「セカイ殿は新人の冒険者か?」

「あぁ。そうだけど」


 インベントリに一億圓を入れ終わると、女騎士が訊いてきた。


「ふむ。私は今回の手柄で昇格することになったのだが、君の功績と言っても過言ではない。そこで何かお礼をしたいのだが」

「お礼?」

「あぁ。なんでもいいぞ」


 なんでも? なんでもって、なんでもだよな?

 この人、とても律儀そうだし、借りは返したいのだろうが、そうか……。なんでもか……。


「じゃあ、一つお願いがある」

「なんだ?」


 やっぱりこのままじゃ良くないよな。あまりにもシルが報われない。まぁ、原因は女騎士に告げ口した俺だけど、シルが見つかるのは時間の問題だった。あのままだと俺が王女を誘拐したと罪を着せられる可能性だってあったんだ。


 だけど、やっぱり俺はシルには笑っていて欲しい。裏切られたのに、ありがとうって言える人を悲しませたくない。そう決心すると、俺は女騎士に一つの願いを告げるのだった。




◆作者より◆


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ゲーム転生『俺と王女のエクソダス』〜愛する世界で少年は、ゲーム知識で最強になる〜 空花凪紗~永劫涅槃=虚空の先へ~ @Arkasha

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